冒険野郎

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冒険野郎

花丸小学校、三年三組、四時間目。 今日は待ちに待った授業参観日だ。 「じゃ、賢二君、読んで?」 「はい!」 担任の小松愛佳先生に名前を呼ばれた。 僕は立ち上がると意気揚々と大きな声で 書いてきた作文を読み始めた。 「うちには冒険野郎がいます。 冒険野郎は普段は普通の床屋ですが、お金がある程度たまると僕を近所のおばあちゃんちに預けて冒険に出かけます。僕が一年生の時はボルネオの奥地の村人達を困らせていた大量の毒蛇退治にでかけ、現地の人と共同かいはつした罠で見事にやっつけました。僕が二年生の時はフロリダ近くの川に潜んでいた未知の生物をしとめたら、巨大化したワニで、そいつはそれと素手で格闘し、背負い投げをして見事にやっつけました」 僕が一生懸命読んでいるのに、周りのクラスメイトや後ろに立っている父兄達がクスクスと笑っているのが聞こえてちょっと嫌な気持ちになる。 でもな、これからがいいところなんだぜ。 「昨日、冒険野郎から連絡が来て、タスマニア島に行きジャングルで寝ていたらタスマニアデビルに襲われそうになったので、食べていた肉を与えて友達になったそうです」 「なんだそれー、作り話じゃねえか〜」 斜め前の奏多にクスクスと笑われて、僕は顔が真っ赤になった。だってこれはーー と、小松先生がコホンと咳払いをする。 そうだ、皆に静かにしろってガツンと言ってよ、先生。 小松先生はニッコリと笑うと僕に向かって 優しく()した。 「賢二君、本当にあったみたいに上手に書けているわね。でも、作文は小説ではないわ。本当のことを書かないとね。次からは気をつけてね?」 先生の言葉に僕は落胆した。 途端、教室の扉がガラッと開いた。 「へーイ、ボーズ&ギャルズ&親&テ―チャー!」 うちの冒険野郎がついに冒険から帰還した。 「賢二、すまない!飛行機が砂嵐に遭って遅れた! 悪いが、今回ちょっと厄介な事になってな。離れないから仕方なくて上着で隠して連れて来たよ。こいつ、何ていうヘビか知ってます先生?」 超カッコいい角刈りにした僕のお父さんの首から巨大なヘビが鎌首をもたげ、小松先生にシャーッと尖った二つの牙とチョロリと長い舌を伸ばした。 先生は泡を吹いて失神した。 「テーチャー?」 親達は悲鳴をあげて我先に教室から逃げ出し、 子供達からは歓声が上がった。 校庭には泥んこのジープが横付けされ、舞い上がる砂埃の中で、お父さんのお客さんでいつも一緒に冒険に行く在日留学生でボルネオ出身の相棒・ジョイが校舎から逃げ出してくる親達に呆れていた。 「ダカラヤルナッテイッタンダヨ、  オレ、シラナイカラネ」 ジョイは首に巻いたタスマニア土産の気持ち悪い程に良く出来た蛇のパペットに一人ボヤいた。 完
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