秋が来る前に、さらってください

38/51
前へ
/432ページ
次へ
 でも、楽しかったな、この四ヶ月、と思いながら、真昼は鍋を見つめて言った。 「なんでしょう。  走馬灯のように思い出が回るのですが。  私、死ぬんでしょうか」 「死ぬのなら、たぶん、暑くてだろう。  というか、このままなら、心中だ」  エアコン、強くしていいか、と言って、千紘がリモコンを取りに立ち上がる。  その背を見ながら、真昼は言っていた。 「千紘さん、離婚してください」  千紘が今度は、リモコンを落とした。 「このまま、私を此処に置いて帰ってください。  私はこの無人島で、ひとりで魚でも釣って、千紘さんを思って暮らします」  息を止めて、返事を待っていると、千紘が訊いてきた。 「……お前、今、何杯呑んだ?」
/432ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1838人が本棚に入れています
本棚に追加