プレイボール!

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プレイボール!

国富(くにとみ)さん、お茶出しお願い」  受話器を耳に挟みながら、メモを取る私。お局様はマネキュアを乾かしているから、お茶出しはできないらしい。電話が終わると慌てて席を立ち、会議室へとお茶を運んだ。社内会議だから、少々お茶出しが遅れても、文句を言う人は誰もいない。  冷凍食品の大手メーカー横綱食品(よこづなしょくひん)で営業事務の仕事をしている私。こんな大きな会社に入社できてラッキーだと思っていたけれど、まさかお局様が生息しているとは。でも、営業マンや上司はみんないい人たちだし、新製品が出たら、真っ先に試食できるし、がんばろうと、自分に言い聞かせて丸五年。四月には入社六年目に突入するけれど、このままお局様にロボットのように扱われたまま、がまんして働くのも限界に達している、今日このごろ。 「ごめんね、ありがとう」  働かないお局様のせいで奔走する私を見て、申し訳なく思ったのか、同期の高城逸(たかじょういつき)がボソッと謝った。笑顔で会釈をすると、会議室を後にした。ほんの少し、がんばる気が湧いた。  私がデスクに戻ると、お局様が一枚のメモを差し出した。 「国富さん、手配ミスがあったみたいよ。とりあえず私が謝ってあげたから。再手配、よろしく」 「すみませんでした」  メモの内容も確認しないまま、お局様に頭を下げたのは、揉め事を起こしたくないから。冷静になってメモの内容を確認する。手配ミスをしたのは、先週の金曜日。私が体調不良で休んでいた日だった。  こんなお局様でも、私が入社ホヤホヤの頃は、いろいろと教えてくれたし、仕事も率先してやっていた。私が仕事を覚えるとともに、仕事をしなくなった。  辞めよう。そもそも私がいることが、彼女にとって大きなマイナスになっている。もともと彼女は、仕事ができる人なんだから。私はいないほうがいい。三月いっぱいで辞めよう。そう自分に言い聞かせると、いくらか気持ちが楽になった。
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