二回

2/6
前へ
/76ページ
次へ
「田野さんの後任の、国富ルイさん。野球には全く興味がないみたいやから、みんな、奮起せなあかんで」  日向社長が野球部の方々に私を紹介してくれた。その紹介の仕方は、なんだか野球部の方々に失礼な気がした。申し訳なく思いながら、作り笑いで会釈をした。 「国富さん、彼は田野嘉男(たのよしお)くん。レフトで四番」  七緒さんの前に座る男性は、偶然にも七緒さんと同じ名字だった。いや、田野さんって名字は珍しいし、偶然ではないかもしれない。そう思いながら、照れ笑いを浮かべる男性に視線を送った。 「七緒さんの、旦那様ですか」  つい、驚きの声をあげてしまった。大柄でいかついけれど、それでいて表情にはまだ幼さが残る。私より年下か、同年代に見える。 「正解! 旦那様というか、かわいい弟って感じやけど!」  美女と野獣カップルとは、まさにこのふたりのことだと思った。 「こちらの彼は、ピッチャーの南郷康(なんごうやすし)くん。頼れるクローザーや」 「クローザー、ですか?」  日向社長の紹介にピンとこなくて、首をかしげる私。クローザーって、なんだろうか。ピッチャーでもあり、クローザーでもあるのか。選手兼マネージャーみたいなものか。 「抑えの投手です」  南郷さんが苦笑いをしながら教えてくれたが、私はますます混乱した。投手=ピッチャーのことなのはわかるけれど、ピッチャーにも種類があるのかもしれない。クローザーの意味がよくわからないけれど、笑顔で乗り切った。 「彼は、一番でセンターの佐土原将志くん。チームのムードメーカー」 「よろしくお願いします」  私が口を開くより先に、明るく挨拶をすると、また笑顔を見せた。 「こ、こちらこそ」  なんだか妙に照れ臭かった。アルコールのせいではなく、顔が火照っているのを感じていた。 「佐土原くんは最近、レギュラーに定着したんや。足も速いし、守備もうまいから」  佐土原さんは、日向社長のお気に入りなのかもしれない。ご機嫌よく佐土原さんのことを紹介していた。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加