二回

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 話の流れから、七緒さんの旦那様が三十歳、南郷さんが二十九歳、佐土原さんが二十七歳だと知った。みんな、年下だ。まだ若いと思っていたけれど、私はもう若くないと痛感した。日向社長が気分よく話をしているときは聞き役にまわり、話が途切れると、先輩方を立てるようにしてネタふりをする。楽しく会話が弾むように、佐土原さんが気配りをしているのが、よくわかった。日向社長がチームのムードメーカーと言ったのも、納得できる。佐土原さんは、常に笑顔だ。それだけでもなんだか、楽しい気分になれた。 「国富さん、お酒が強いんですね」  少し会話が途切れたとき、顔色の変わらない私を見て、佐土原さんが言った。 「見た目、お酒弱そうやのに」  妊婦だからノンアルコールだけれど、そうでなければ酒豪であろう七緒さんが、すかさず突っ込んだ。 「そういうギャップに男は弱いんや」  終始ご機嫌な日向社長が、ニヤリと笑った。佐土原さんの前で、たっちゃんの話はしてほしくない。そう願いながら、話を逸らそうとしたけれど、話題を作れず、うつむいてしまった。 「今更ですが、田野さん、予定日はいつでしたっけ?」  思わずガバッと顔をあげた。酒豪の話から、男性の話に傾きかけていたところを、佐土原さんが突然、ガラッと話題を方向転換したのだ。よかった。佐土原さん、この手の話を私がしたくないって、なんとなく悟ってくれたようだ。一瞬、目が合うと、どちらかともなく微笑んで小さな会釈をした。 「ありがとうございました」  日向社長にごちそうしてもらい、お礼を言ってから店を後にした。七緒さん夫婦は車で、日向社長と南郷さんとは乗る電車が逆方向。ここにきて、まさかの佐土原さんとふたりっきりになった。 「お疲れ様でした!」  車で帰る七緒さん夫婦とは早々に別れ、日向社長と南郷さんは、モノレール乗り場へと向かった。私と佐土原さんは、北大阪急行から御堂筋線へと直通している電車に乗り込んだ。始発駅だから、ふたり並んで席に座った。並んで座ると近すぎて、顔を見るどころか、話をすることもできない。奇跡的にたっちゃんという彼氏がいるものの、いくつになっても男性慣れしないな、私。 「どちらまで乗るんですか?」  緊張する私の隣で、佐土原さんが明るい笑顔を見せて話しかけてくれた。 「桃山台です」  まともに顔を見ることができないまま、小さくつぶやいた。 「あ、一緒ですね。桃山台に春日園の独身寮があって、そこに住んでいるんです」  まさかの同じ駅。しばらくドキドキが止まらない。返す言葉もみつからない。そのとき、フッと、折りたたみ傘のことが頭に浮かんだ。 『佐土原さんに似合いそうな、新しい傘を買いました』  そう伝えたいけれど、口にする勇気がなかった。たっちゃんという彼氏がいるのに、他の男性にプレゼントを渡すだなんて。なんだかいけないことをしているような気がした。
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