二回

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 でも、ちょっと待って。落ち着け、ルイ。  駅から自宅に向かって歩き出す自分に、冷静な自分が心の中で話しかける。  佐土原さんは、たまたま出くわした私に傘を貸してくれただけで。今日、一緒に帰ったのも、たまたま最寄りの駅が同じだから。国富ルイに興味があるわけやないんやで?  でも、さ。なんで私に傘を貸してくれたんやろ? 自分が雨に濡れてまで、興味がない女性に傘を貸したいと思う?  いやいや、ルイ。落ち着け。佐土原さん、見てみ? 老若男女問わず親切にしそうやん? あの場に居合わせた人がルイやなくても、傘を貸していたんとちゃうかな? それがたまたまルイやっただけ。あなたは男性を知らなさすぎて、ちょっと親切にされたらときめくんやから。前にもそんなこと、あったやろ?  あった。元同僚の高城さんが、やたらと親切やから、自分に気があるんやないか? と勘違いした時期が。  ほら。あなたは学習能力がないんやから。酷いことを言うようやけれど、あなたみたいな地味な子に、ひと目惚れする男性は、残念ながらいてないわ。  そうか。残念。私の勘違いで、あわや佐土原さんに恋をしそうになった。  あかんで。あなたには大切な男性がいてるやろ?  大切な男性。私にはたっちゃんがいる。この間のことは、軽い火遊び。私との約束をドタキャンすることもないし、私のことを優先してくれるし。きっと、佐土原さんに恋をした感覚に落ちたのは、たっちゃんへの当てつけ。私、たっちゃんが好き。たっちゃんも私が好きなはず。嫌いな女性と、何のメリットもなく、こんなにも長い間付き合うなんて、普通では考えられない。ふたりの間には、確実に愛がある。  そうやろ? ねぇ、たっちゃん?  
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