二回

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 自宅に着くと、家族に迷惑がかからないように、そっと玄関の鍵を開けて中に入った。お風呂に入って、頭の中をスッキリとさせよう。確かに私は、佐土原さんに好意を持った。でも、それはあくまでlikeなだけで。loveの領域ではない。佐土原さんみたいな好青年、誰だって好きになる。笑顔が素敵で、気配りもできて、優しくて。日向社長だって、佐土原さんのことを気に入っているみたいだから。私が気に入ったって、おかしなことではない。惚れたはれた、ではない。人間として好きなだけ。 「佐土原さんは別に。私にはたっちゃんがいてるんやから」  シャワーを頭から浴びながら、何度も何度も繰り返し、念仏のように言った。 「たっちゃん、私のこと好きなんかな?」  湯船に浸かって、ポツリとつぶやいた。私のこと、最初はバイト仲間のひとりとしてみていただけだと思う。たっちゃんはイケメンで人気者。高嶺の花だと思っていて、恋愛対象外だった。  それが、ある飲み会の夜、ふたりで飲み直した後、一線を越えた。まともに恋愛をしたことがなかった私は、たっちゃんにすべてを捧げた。それから、たっちゃんは私に自分の名前を呼ばせ、私を『ルイ』と呼ぶようになった。よくよく考えたら『付き合ってください』と言われていない。『好き』と言われていない。たっちゃんにとって、私はただの友だちで。友だち以上、恋人未満なのか。 「違う違う。私とたっちゃんは付き合っているんやから!」  勢いよく湯船から立ち上がると、風呂場に響く声で言った。その声は、なんだか虚しく響いた。
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