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今週も、精いっぱいがんばった。週末は、彼氏と過ごすご褒美ディナー。先週は、私が体調不良でキャンセルしたから、今日は楽しまないと。
「ルイ!」
人がごった返す、梅田の待ち合わせスポット。私を呼ぶ声に、微笑みながら小さく手を振った。
「先週は、ごめん」
「ええねん、気にしな。それよりルイが心配」
たっちゃんが、そっと私の手を握って歩き出した。たっちゃんこと、延岡辰哉とは、二十歳の頃、バイト先で知り合ってからの付き合い。物腰が柔らかくて、人気者のたっちゃんと、目立たない存在の私。優しく照らす太陽と地味な月の相性は、対照的でいいのかもしれない。
「ルイ、また痩せたんとちゃう?」
創作料理が食べられるおしゃれな居酒屋の個室で、向かい合って座るなり、たっちゃんが口を開いた。
「そうかな?」
会社の愚痴をたっちゃんには言いたくなくて、とぼけてみせた。
「なんか、悩みでもあるんか? 職場の人間関係とか」
とぼけてみせたって、たっちゃんにはお見通しのようだ。
「まぁ、いろいろとあるわ」
ビールで乾杯をすると、グイッと飲んだ。ビールの苦味がのどを潤して、心まで癒してくれる。
「ルイ、相変わらずいい飲みっぷり」
そんな私をニヤニヤしながら、たっちゃんがながめた。ふたりが付き合い始めたきっかけは、地味な外見からは想像もつかないような、私の飲みっぷりのよさなのだから。
おいしい食事とお酒、それにたっちゃんと過ごす時間が、なによりのストレス発散になる。辞めようと思ったけれど、もう少し、がんばってみようかな? 仕事。
「ところで、ルイを無理矢理ダイエットさせたのは、誰なん?」
食事でお腹が満たされ、いい感じでアルコールがまわってきたのを見計らい、たっちゃんが言った。たっちゃんは、いつもそう。私に何か悩みがありそうだと察したとき、アルコールを勧めて、気分をよくさせてから、悩みを打ち明けさせようとする。
「お局様」
「ルイの悩みは、それに尽きるな」
私が体調を崩したり、痩せたりするのは、たいていお局様が絡んでいる。たっちゃんとは、長い付き合いだ。何度か、いや、何度もお局様のことを愚痴っている。
「せっかくのデートやのに、あの人の話なんてしたくないわ」
嫌なことは、おいしい焼酎でグイッと飲み干した。
「さぁ! もうその話はおしまい! なんか、甘いものでも食べようかな?」
そう言って、メニュー表に手を伸ばした。
「辞めたら? そんな会社」
「でも、せっかく大きな会社に入れたのに、お局様のせいで辞めるやなんて、なんか悔しいし」
メニュー表とにらめっこしながら、ブツブツとつぶやいた。
「ルイがその気なら、転職先を紹介してあげる」
メニュー表から目を離してたっちゃんをみつめると、ご機嫌よくニコニコと笑っていた。
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