四回

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 土曜日の朝。たっちゃんと朝帰りをしたにもかかわらず、なんだか憂鬱な気分で地元まで帰ってきた。こんな気分の日には、お気に入りの洋菓子屋さんで、甘いものでも買おう。そう思い立つと、ぶらりと立ち寄った。 「いらっしゃいませ」  自動ドアを開けた瞬間、洋菓子屋さんに立ち寄ったことを後悔した。 「こんにちは」  偶然にも、佐土原さんに会ってしまった。桃山台に住んでいるから、偶然会ったとしても、なんら不思議はない。でも、よりによって朝帰りのところに会うだなんて。なんだか気まずい。見た目、朝帰りだなんて、バレていないはず。でも、土曜日の午前中に服装バッチリ決まっているだなんて、不審に思われそうだ。 「こんにちは、佐土原さん。甘いもの、好きなんですか?」  私のことを突っ込まれる前に、先手必勝。洋菓子の箱を手にした佐土原さんに、私から話しかけた。 「はい。こないだ、都市対抗野球大会の予選を勝ち抜いた、自分へのご褒美です」  佐土原さんの方も、なんだか気まずいのか、恥ずかしそうに頬を赤らめた。 「男が甘いもの好きやなんて、おかしいですか?」 「いえいえ。ここの洋菓子、おいしいですもんね」  朝帰り直後に立ち寄る方が、よっぽどおかしいわ。自分に突っ込んだ。 「国富さんは、これからどこかにお出かけですか」 「友だちの家に遊びに行くんで、手みやげを」  咄嗟に嘘をついた。やっぱり、土曜日の午前中にこんなきっちりとした服装は、佐土原さんから見ると不自然だったようだ。 「そうですか。楽しんできてくださいね」  佐土原さんは、明るい笑顔を見せて帰っていった。その笑顔は、なぜか私の胸の鼓動を早くさせるから困る。  家に帰ってからも、佐土原さんの笑顔が頭から離れない。コンビニではなく、わざわざひとりで洋菓子屋さんに足を運ぶだなんて、よっぽどの甘党だ。いや。もしかしたら、彼女がいて、洋菓子を買って彼女の家まで行くのかもしれない。 「なんか、むかつく」  佐土原さんみたいな好青年、イケメンじゃなくてもモテるだろう。でも、彼女がいるのは嫌だ。野球ひとすじでいてほしい。ブツブツとつぶやくと、ベッドに寝そべったまま、枕を壁に投げつけた。少し、眠ろう。いつもの私ではない。きっと、疲れているせいだ。
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