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モヤモヤした気分で、お昼ごはんも食べずに寝た。おやつどきには、お母さんが淹れてくれたカフェオレを飲みながら、ふたりでケーキを食べた。そのままダラダラと、プロ野球のデーゲームをテレビ観戦したら、あっと言う間にもう夕方。土曜日のほとんどを、無駄に過ごした。なんか、スカッとしたい。
「いってきます」
晩ごはんにお茶漬けをサラッと流し込むようにして食べると、デニムとTシャツ、上にパーカーを羽織って、家を飛び出した。スカッとしたいなら、ここしかない。思い立ったが吉日、勢いでバッティングセンターにやってきた。プリペイドカードを買って、思う存分、スカッとしてやる。鼻息荒くしてきたものの、どのバッターボックスに入ればいいのやら。お子様用が七十キロ。でも、お子様じゃない。たっちゃんと一緒に来たときは、九十キロくらいだった。
バッターボックスに入ることができないまま、ひとり、ウロウロとしていた。
「国富さん」
その声にハッとして振り返ると、佐土原さんが目を丸くしていた。
「へへっ、こんばんは」
一度じゃなくて、二度も会うだなんて。しかも、バッティングセンターで。 それにはもう、照れ笑いを浮かべるしかなかった。
「こんばんは。バッティングセンターで会うやなんて、びっくりしました」
日向社長から『野球に興味がない』って紹介されていた私が、バッティングセンターにいるだなんて。佐土原さんが驚くのも無理はなかった。
「なんか、スカッとしたかったんで。佐土原さんは?」
「今日は、午後から練習で。帰りにバッティングセンターに立ち寄ったんです」
いつも自主練習を欠かさない、佐土原さんらしい。今日は雨だから、ここでバッティング練習をするようだ。
「あ、練習のじゃまになりますね。私のことはおかまいなく、練習してください」
自分なりに気を遣って言ったのに、なぜか佐土原さんは笑っていた。
「いや。今日は国富さんと、楽しくバッティングしますわ。スカッと、ね」
そう言うと、私に合ったバッターボックスを教えてくれた。
「では、お手並み拝見といきますか?」
「拝見しなくてもいいです!」
ブンブンと手を振ると、バッターボックスに入った。ピッチングマシンに映された、選手の姿を睨みつける。あれは、たっちゃんだ。たっちゃんからホームランを放ってやる。浮気症のたっちゃんと、別れたいような、別れたくないような、中途半端な自分自身をかっとばせ。一球、一球、フルスイング。当たらなくても、くらいつけ。憂鬱なんか吹き飛ばせ。
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