四回

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「佐土原さんより、五歳も年上なんですが」  苦笑いしながら、ポツリとつぶやいた。 「いやぁ。びっくりしました! 若くみえますね!」  佐土原さんの口ぶりからすると、お世辞ではなくて、本心か。 「ありがとうございます」  ちょっと複雑だが、おばちゃんだと思われていなくて、ホッとした。 「ほな、オレに敬語やら、『さん』づけはいりませんよ! 気軽に呼んでください。佐土原くんでも、まさやんでも」  急に気軽に呼んでと言われても、困る。さすがに『まさやん』はこっぱずかしくて、無理だ。 「国富さん、以前は違う職場にお勤めやったんですよね?」  佐土原さん……いや、佐土原くんは、すぐに新しい話題作りをした。 「横綱食品で営業事務を」 「横綱食品ですか。優秀なんですね」  いや。単にラッキーだっただけ。そこは返事をせず、氷が溶けて少し薄くなったアイスカフェラテを口にした。 「オレは、日向社長に出会って、高卒で春日園に入社したから。野球を取ったらただのアホですわ」  照れくさそうに笑う横顔が、なんだかかわいくみえた。 「その分、めっちゃ努力しているし。私なんかよりずっと偉いです」 「あ。また敬語使った! 気軽に話してくださいよ?」 「佐土原くんが、敬語やから」  目が合うと、なぜかお互い黙りこんだ。この無言のせいで、うるさい胸の鼓動が佐土原くんに聞こえそうだ。 「佐土原くんも、敬語使うの、ナシ」  途切れ途切れの、不自然な言葉しか出てこなかった。そんな私がおかしかったのか、佐土原くんが笑いを堪えるのに必死だ。 「わかった」  その後、また会話が途切れた。汗をかくアイスカフェラテを勢いよくストローで飲み干した。 「ごちそうさま! 明日も練習やろうから、そろそろ帰ろうか?」 「だから……明日は休みやって……」  笑いを堪えながら、小さく突っ込まれると、恥ずかしさのあまり、耳まで真っ赤になった。 「でも、またバッティングセンターに行くやろ?」 「うん。よかったら、国富さんも」  そこまで言うと、佐土原くんがスマホを取り出した。 「連絡先、教えてくれたら」  そのひと言に、抵抗もなくスマホを取り出すと連絡先を交換していた。 「ほな、また明日」  明日は、たっちゃんと会う予定があるのに。 「うん。いつもは、何時くらいに行っているん?」 「夕方が多いかな?」 「ほな、今日と同じくらいでもいい?」 「了解」  たっちゃんはきっと今頃、受付嬢とお楽しみだ。私だってストレス発散にスカッとしてもバチは当たらないだろう。佐土原くんと、やましい関係ではないのだから。
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