五回

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五回

 日曜日は、たっちゃんとランチ。妙に腰の辺りが痛い。生理になる前触れなのか。無意識に腰の辺りを摩ってしまう。 「ルイ、どうしたん? 腰が痛いの?」  たっちゃんにはすぐにバレてしまった。ははは、と苦笑いをしてごまかす。生理になる前触れではなく、恐らくバッティングセンターでフルスイングしたせいだ。たっちゃんと初めて行ったときも翌日に腰が痛くなったことを思い出した。 「オレに隠れて浮気している? とか」 「その言葉、そっくりそのままたっちゃんに返すわ」  ニヤリと笑う私に、たっちゃんは呆れ顔だ。 「だから、浮気はしてへんって」 「うーん。確実な証拠もないし、ね」  あのとき、決定的瞬間をスマホで撮影しておけばよかった。もしくは、現行犯逮捕。 「なんでそんなに疑うかな? たしかに、受付の女性も春日園野球部を応援しているから、会ったら話くらいは、する」  ブツブツと言いながら、アツアツのお好み焼きをコテに乗せて口にした。 「アツっ!」  おっちゃんみたいな仕草も、たっちゃんがすればカッコよく見えるから不思議だ。 「それにあの人、南郷くんの彼女やし」  南郷くんは、いつか紹介された春日園野球部のクローザーだ。イケメンピッチャーと美人受付嬢。お似合いのカップルだと思う。 「な? オレが浮気する理由、ないやろ?」  南郷くんの彼女でも、狙った獲物は逃さない。それがたっちゃんなのではないか。 「これから、オレと愛を確かめに行く?」  ニヤリとするたっちゃんに「腰が痛いから遠慮する」と、サラリと断った。 「なんや。おもしろくない。ルイこそ、浮気しているんとちゃうか?」  冷たく返した私に、たっちゃんが口を尖らせた。 「は?」  思わず、立ち上がった。なぜ、浮気をしている張本人からそんなふうに言われないといけないのか。 「冗談で言ったのに。そんなにムキにならんでもいいやん?」  たしかにそうだ。力が抜けて、ストンと椅子に座った。 「ホンマに浮気していないよな?」  さっきまでとは違う真顔で、たっちゃんが聞いた。 「してない」  たっちゃんの目を真っ直ぐにみつめて、はっきりと言い放った。佐土原くんとは、一緒にバッティングを楽しむ、バッティングセンターフレンド。略してバフレ。佐土原くんは私をどう思っているのかわからないけれど。まぁ、『おもしろい人』くらいなもんだろう。 「よかった。その言葉を聞けて安心したわ」  たっちゃんに、いつもの優しい微笑みが戻った。たっちゃんは、おそらく彼氏。佐土原くんは、友だち。それ以上は、説明がつかない。
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