五回

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 七月十九日の朝は、いつも通りに出勤。いつものように仕事をこなし、朝の会議を終えると、日向社長とふたり、駅へと向かった。仕事のスケジュールを調整し、十四時プレイボールの、都市対抗野球大会を観に東京へと向かうためだ。せっかく東京に行くのに、日帰りなのは残念。でも、春日園野球部の試合を観に行けるのは、ラッキーなことで。これも仕事のうちだから、楽しみながら給料をもらえる。春日園野球部が決勝まで勝ち進んでくれたら、なおヨシ。  新幹線で東京に着いて、中央線に乗り換える。東京駅から中央線で数分、アクセスのいい場所にそれはあった。プロ野球、東京ジャイアントの本拠地、水道橋ドーム。テレビでよく見る姿に感動して、スマホで撮影してから、中に入った。  十四時、プレイボール。互いに譲らない投手戦となり、一瞬たりとも気を抜けない緊迫感がドーム内を包んだ。  そんな緊迫感の中で迎えた、八回表。横綱食品の攻撃。先頭バッターにフォアボールを許し、ノーアウト一塁。続くバッターは、送りバント。ワンアウト二塁。次のバッターは、セカンドゴロに仕留めるが、またもフォアボールを許し、ツーアウト一塁三塁とピンチが続く。  私も、日向社長も、無言のまま戦況を見守った。ボールが先行し、バッター有利な状況で、渾身のストレートが入り、ワンストライク、スリーボール。ホッとしたのも束の間、ピッチャーの投げたボールが、キャッチャーのミットを弾いて、後ろに転がった。 「あかん! ワイルドピッチや!」  その間に、三塁ランナーがホームインし、一塁ランナーは二塁に進塁。横綱食品が先制した。春日園はツーアウト二塁で、ピンチが続く。横綱食品は、次のバッターがライト前ヒットで、さらに一点を追加。春日園は、終盤で二点を追いかける展開となった。 「まだチャンスは二回ある」  日向社長はダイヤモンドに視線を向けたまま、小さくつぶやいた。  八回裏、春日園の攻撃は、三者凡退に終わる。それでも私たちは、選手を信じて応援するしかない。
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