プレイボール!

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「国富さん、辞めるの? 残念やわ」  翌日、さっそくお局様に退職することを伝えると、本当に残念がっているのかわからない口調でそう言った。 「長い間、お世話になりました」 「国富さんがいちばん、長かったもんな」  パソコンに目をやったまま、適当な返事があった。嫌な思いをするのも、あと少し。 「それで、あの、申し訳ないんですが、今週末、午後休をいただきたくて」  とぎれとぎれに言葉を繋ぎながら、お局様に休みたいと伝えた。 「ええよ。次の会社の面接かなんかやろ?」 「はい」  この人は。今まで何人の人たちを退職に追い込んだのだろう。そこまでしてもクビにならないのは、お局様が縁故で入社したかららしい。いったい誰のコネだろう。部長とか支店長とか、相当お偉いさんのコネなのかなもしれない。おかしなことを考えていると、目の前の電話が鳴った。ワンコールですぐに受話器をとった。 「お電話ありがとうございます。横綱食品です」  丁寧な対応を教えてくれたのは、お局様なのに。現状を思うと、残念でならない。  金曜日の午後、私は、職場から吹田市まで足を運んでいた。大手飲料メーカー春日園。かつて大阪万博が開催された、太陽の塔のお膝元にその会社はあった。 「ルイ!」  たっちゃんが、私をみつけて笑顔で手を振った。たっちゃんは、春日園本社で人事担当をしている。そんなたっちゃんのコネで春日園の面接を受けようとしている私は、お局様のことは言えない。 「なんか、表情固いな」 「そりゃそうやわ。こんな大きな会社の面接を受けるんやから」  いくら面接官が自分の彼氏だと言っても、久しぶりの面接は、緊張するもの。それなのに、たっちゃん。私が緊張していることがおかしいらしい。プッ、と噴き出し笑いをした。 「笑わんといてよ」  なんだかおかしくなって、私まで笑ってしまった。 「いいね! その笑顔。社長もきっと気に入らはる」
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