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試合は、大阪リミックスカウズの打線が爆発。さらにピッチャーが好投を見せ、三振の山を築いた。
「あーあ。こんなに偏ったゲームは、おもろないな。リミックスカウズのファンはうれしいやろうが」
どちらのファンでもなく、ただ野球観戦が好きな日向社長が、不満げにつぶやいた。たしかに、表がすぐに終わり、裏が長々と攻撃する、退屈なゲームだ。大阪リミックスカウズが十対0と完封勝利を収めた瞬間、日向社長がうーんと伸びをした。
「ほな、二次会行くで!」
今日は、野球よりもお酒だ。初めての野球観戦なのに、残念なことに。
二次会は、日向社長が野球観戦のあとによく立ち寄るという、沖縄料理専門店。色黒の、日向社長のイメージにぴったりだ。
「かんぱーい!」
乾杯はもちろん、オリオンビール。クリーミーな泡と軽快な味が特徴のビールだ。
「はぁっ」
スポーツ観戦のあとのビールは、おいしい。思わず明るいため息が出た。そんな私を見て、日向社長が目を細めて笑った。
「相変わらず、いい飲みっぷりやね国富さん」
「そ、そうですか」
なんだか恥ずかしくなって、頬を赤らめた。でも、ジョッキから手を離さない。
「おとなしそうな外見と、おっさんみたいな飲みっぷりのギャップがたまらんな! 延岡くん!」
日向社長に突っ込まれ、今度はたっちゃんが頬を赤らめた。
「どうやった? 初めての野球観戦は?」
オリオンビールと沖縄料理に舌鼓をうちながら、日向社長がご機嫌よく質問してきた。今度は慎重に、言葉を選ばなければ。
「えっと、近くで観られましたし、迫力があって、楽しかったです」
「そうか。それはよかった」
満足そうな笑みを浮かべる日向社長を見て、たっちゃんに視線を送った。言葉を選んだ私に『よくやった!』と言わんばかりの微笑みを返してきた。
「ウチも、野球部があるんや。横綱食品さんほど、強くはないけれど」
「横綱食品の野球部って、そんなに強いんですか?」
どうやら間の抜けた質問をしてしまったらしく、日向社長とたっちゃんが顔を見合わせた。
「横綱食品って、昨年の日本選手権で優勝してるんやで?」
「日本選手権で優勝」
優勝しているのだから、強いのか。今の今まで知らなかった。
「自社の野球部が強いのを知らんかったやなんて。ほんまに野球に興味ないねんな」
海ぶどうを口にしながら、日向社長がフンッと鼻で笑った。
「すみません」
「いやいや。これから手とり足とり指導してあげるから。ね?」
アルコールがまわってきていることもあり、日向社長の口ぶりがなんだかいやらしく聞こえた。
「あ、はい。ありがとうございます」
たっちゃんに、チラリと視線を送ると、相変わらず余裕たっぷりの、涼しい顔をしていた。
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