恋がはずんだら、春。

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小気味良い音が新田君の両頬で二回炸裂し、 彼は目を丸くして尻餅をついた。 「いてっ、何すんだよ、いきなり」 笑顔を引っ込めて、 ジンジンと痛む両手をパンパンと払う。 新田君には悪いけど、こんな晴れ晴れとした 気持ちは初めて。 「チョコは作ってきたけど、本命にあげたの」 「は?誰に?」 「優しく慰めてくれる気持ちの温かい人」 上を見上げた。 逢坂君はいてくれた。きらめく夕陽の中で ひどく驚いた顔をしている。 私は思いきり右腕を伸ばし拳を握り親指を立てた。 彼はふっと笑うと同じポーズを返してくれた。 微笑み合った私達を照らしていた夕陽も 沈みきる前の最後の光を一際眩しく投げかけてくれた。 それは春の陽光に似て とても暖かった。
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