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秀
「秀だ! 秀が帰って来たぞ!」
俺は無精髭に尋ねた。
「彼は有名人なんですか?」
「俺には秀と話す機会が2,3度しか無かったけどよ、この村1番の天才さ。秀に分からない事なんて無いって噂よ」
「へー」
その時、確かに頭の良さそうな顔つきをしているなあと俺は思ったんだ。遠目からなので詳細までは分からなかったが、今までどうしてたとか、今は何をしているとか聞かれていたんだろうな。
「そうだ! 秀に鉄男が勝てるかを聞けば良いんだよ」
「秀に分からない事は無いからな」
皆は秀に、鉄男と「冷たい男」の説明をしているようだ。
「秀ならどっちが勝つか分かるだろ?」
皆は秀の解答に耳を傾けた。すると、秀が答えた。
「恐らく対決は実現しないでしょう」
意外な秀の答えに周りがざわついた。
「秀! どういう事だよ?!」
秀は両手を広げて、話は続きますという仕草をし、話し出した。
「その『冷たい男』ってのは嘘をついています。恐らく対決を避けて逃げるでしょう」
「嘘?!」
「ええ。温度というのは、高温には限界が無いのですが、低温には限界があります。最も低い温度は-273度で、これ以下にはなりません。従って、-300度に出来ると言う『冷たい男』は嘘つきです」
再び、周りがざわつき、言い争いが激しくなった。鉄男の勝ちだと言う者達と、戦っていないから勝負は無効だと言う者達の言い分がぶつかり合う。俺はその混乱に乗じてその場を離れ、考えたんだ。
そうなのか……と。次からは-200度と言うようにしよう……と。
◆
俺はあの街での商売を諦め、窃盗した10本の液体窒素ボンベを積んだ、三輪軽トラに乗り込み、次の街へと移動したって訳さ。
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