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年に一度の出番です
「おにはーそとー」
「ふくはーうちー」
立春前の今日は節分の日。
ゆうちゃんは、海辺の小学校の3年生だ。
今日はお昼休みのあと、全校生徒で体育館に集まって節分の行事の日だ。3年生だから半分だけ使う体育館のまん中くらいの場所に名前の順番で並んで待っていると、海老茶色のスーツの赤鬼仮面が『がおー!ガオー!どしーん!ドシーン!』と言いながらステージの上で暴れ出した。さっきまで校長先生の隣でにこにこしていた教頭先生が居らんぜ、と隣で千之くんがにやにや教えてくれた。もちろんゆうちゃんも気が付いていた。だけどいつも通り3秒数えて、教頭先生が鬼なん、と肯き返す。千之くんは、去年も教頭先生は赤鬼じゃ、と教えてくれた。
一番前の1年生がわあーっと歓声をあげると、赤いジャージの青鬼やピンクジャージの緑鬼、黒いスーツの黒い鬼も『ガオーガオー!』とステージにあがってきた。
6年生のお兄さんが、ひなちゃん先生ちっちゃい鬼だー、と笑って、かわしま先生は体操着もっちょらんよ、と後ろの4年生の女子がクスクス話している。ゆうちゃんは気を付け!の姿勢のまま両手を、グーパーグーパーと握ったり開いたりした。千之くんも、グーパーグーパーと準備運動を始める。後ろで6年生のお兄さんお姉さんたちが、はよー、なげー!ひなちゃんせんせー!後ろまで投げてー!こっちじゃー、とジャンプする。
「では、始めまーす。せーーのー!」
『おにはー』
ステージから赤鬼が発声と伴にふうわり投げた炒り大豆はパラパラと1年生2年生にふりかかる。
『そこー』
きゃぁーと甲高い声を交えながら、そこーと返して1年生2年生が当たった豆を拾う合間に他の鬼たちはぐぐっと両腕でふりかぶる。
『ふくはー』
パラパラと当たって跳ねる大豆に手を伸ばしゆうちゃんも大きな声で『うちー』と応える。
ひなちゃんせんせーこっちじゃー。後ろからガラガラしたお兄さんの声がして緑鬼がぴょんぴょん跳ねて豆を放る。
『おにはー』
とどいとらんけー、そこじゃーそこー
『そこー』
『ふくはー』
『うちー』
『おにはーそこー!ふくはーうちー!』
拾った豆をステージの鬼に児童が投げ返す。
『おにはーそこー!ふくはーうちー!』
体育館に散らばる豆を拾って1年生にも分けて一緒にステージの鬼にエイヤっとぶつけて、ほらこれあげる、と6年生のお兄さんからもらった豆もぶつけて、学年もクラスも列もぐちゃぐちゃになっていく。
ひなちゃんせんせー、らしいピンク色ジャージの緑鬼が『うわーん!まいったー、まいったー』とステージから逃げ出すと『まいったー、まいったー、うわーん!』と他の鬼も逃げ出した。一人残った赤鬼仮面が『そこは嫌じゃー、そこは嫌じゃー、』とふらふらふらふらヨロヨロヨロとステージから居なくなる。わあっと1年生が手を叩く。6年生のお兄さんがにっかりと笑ってゆうちゃんたちをみて、大きく手を叩くから、ゆうちゃんも千之くんもパチパチと大きく手を叩いた。
「はーい。みんなの活躍で鬼はそこにもどっていきましたよ。お礼に教室に厄除け豆が届いてますから、先生から貰って気を付けて帰りましょうね。」
体育館からバラバラに出て行く児童を見送る校長先生の隣にはちょっと息切れしてる教頭先生がニコニコと1年生に手をふっていた。ゆうちゃんも1年生に混ざって教頭先生に手をふった。
教頭先生と友達になれるかな、と千之くんに聞いたら、じゃあ明日一緒に教頭先生んとこいっちゃる、と親指を立てるからゆうちゃんもぐっと親指を立てて返した。ゆうちゃんは友達100人を目指しているのだ。
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