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「あんなー、としのかずだけ豆たべた?そこ左行って」
「上から右、くないじゃ、豆?ってヤクマメ?わあ、ゆう打て下じゃ、下!」
「イカじゃん!飛んで飛んでー消えっ」「「あーっ!!!、、、ああ、、」」
ゆうちゃんと千之くんは、ちぇー、っとつぶやいて、ひらひらカラフル紙吹雪く画面にスクロールするスコアとダイジェストを眺めた。約束の4回までが終わってしまった。時計も夕方5時だ。しおどきだ。ずるずると白いソファから滑り降りた。
「かずくん。レベル上げしといてん。」
「ゆうがあげすぎじゃ。おいつかねー。」
そんなこといわれても、もっともっとレベルあげないとチャットでチーム組めないん。ゆうちゃんはブルーチョンマゲのボーイとメガネホタルな親友のレベルにおいつけなくて悔しい。だからって千之くんを待つのは違う。
「かずくん、おれと組むならあげてん。イカでもいいよ。」
「、、わーってるんじゃ、みとれよ。」
ゲーム機を片付けて、宿題で開いたドリルをカバンにしまう。帰ろう放送が鳴る前にさよならする。千之くんちの広い畳と襖の座敷の端っこの壁掛けテレビはニコリともしなくて、ゆうちゃんはまだあんまり馴染まない。玄関で靴を履いて、ふとゆうちゃんは思い出した。
「ん。でなー、うちはな豆食べたん。」
「はぁ?!ヤクマメ食ったじゃか?!」
驚愕の千之くんに、ううん、とゆうちゃんは首を横に振り、チョコピー、と答えた。
「パパとママが子供の頃は年の数だけ落花生食べたんだって。おれも去年、落花生食べたん。」
「へんなの。あのな、ヤクマメは海に流すんじゃ。食ったらダメじゃ。海神さまがヤクマメの厄を払うんじゃ。」
「あの鳥居の?海神、さま。」
スノーシューズの爪先をトントンと三和土で調整するゆうちゃんに千之くんは近づいて、キョロキョロと周りを見回し、こそっと耳打ちする。
「ヤクマメは海神さまが喰ってそれが浄火になって春の日に昇るって。じいちゃんたちは、その春の日に、海の火を貰いに行く。夜中に舟で行くの見たんじゃ。だからマメは海に流すんじゃ。」
「ふぅん。」
「海が荒れて怖くて流せんかったら馴染みの神様に頼めばいいって母さん言ってたなぁ。いつでも行けるし。春の日はひな祭りだからまだ先じゃ。」
馴染みの神様、とゆうちゃんは口の中で繰り返し、かずくん教えてくれてありがとう。また明日ね!と千之くんちの玄関から真っ直ぐ眼下に見える赤い鳥居を横目に真冬の風の吹きすさぶ中、てくてく歩き出した。
「へえー。じゃあ浜辺に行けばいいんだね。」
ゆうちゃんが学校から持ち帰った五角形に包まれた炒り大豆は所在なくテーブルの小物入れの一番上にある。
パパは焼酎タンブラーにぎゅっと絞ったくし切りレモンをタンブラーにぽいと入れ、五角形の包みをふぅんと眺める。
「豆の神様が可哀想なん。オレのヤクをカタガワリして海の神様にも喰われるん。」
「でもぉ豆の神様は厄除けで皆に感謝されて、海神さまは豆の神様を春に火にしてまた皆に渡すンでしょ?いいんじゃない。」
「皆が貰うのは海神さまの火だよ。豆の神様いないじゃん。」
口をムッと結ぶゆうちゃんに、んー、だからー、とママは人差し指を唇に当て、首を傾げた。
「リサイクル、なんでしょ。」
「ママ、言い方。」
窘めるパパの声に、きょとんとママは首を傾げ、ゆうちゃんも倣って首を傾げる。
「リサイクル、、?」
「ゆう。リサイクルは違うとパパは思う。」
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