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「バスに乗った方が早く着くけど歩きの方が良い?」
もちろん。とシャクティは思って頷いた。喫茶店に来る前に駅前のバスターミナルでちょっと見たが、バスの中はとてもじゃないがゆっくり出来る様子じゃなかった。
ただでさえ密閉された狭い空間と言う大きな缶詰に見ず知らずの人達が身体を見合わせて座っているのを想像するだけで気持ちが悪くなる。
人に危害を加えるようなでかい牙の生えた怪獣なんかが襲って来る状況に追い込まれないかぎり自らの足が使える距離ならバスや船、タクシーなんかは絶対に乗りたくなんてなかった。
(電車は交通手段がそれしかなかったから仕方なくポーの身体に隠れるようにして死ぬ思いで渋々乗ったのだが…)
「分かった。じゃあ裏通りから行こう、そっちは人が少ないから」
「ありがとう」
「ううん。ありがとうは俺の台詞……-本当は凄く無理してるの分かってる…それなのに俺の事情でわざわざ着いて来てくれてありがとう姉さん」
「ポー……」
「本当に怖くて眠いのに眠れもしなかったんだ…いつも目が覚める…」
「あの時間になると?」
「そう。あの人と目が合ったあの時間に決まっていつも天井に何かが落ちて来る音がするんだ。レイヴが言ってた…『あの音って女性が地面に落ちた時の落下音なんじゃないか?』って」
「そんなわけないわよ。…きっと」
シャクティはちょっと自信が無くなってテーブルにあった水の入ったグラスを手で取って誤魔化すように飲んだ。
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