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「私は…私は悠香を守れなかった…。
あの時私が悠香をお母さんみたいに庇って
いれば良かったのに。」
正座し、俯きながら話す彼女の声は
震えていた。
悲しみと、後悔と、そして自分への怒りに
震えていた。
「私は窓から離れた真ん中の席に座ってて、
一人無傷で生き残った自分が
ただただ憎かった。」
当時幼稚園生の小さな女の子は一人の女の子
とともに、この世界にぽつんと置いていかれてしまったんだ。
目の前で血を流しながら娘を守った母親の死
と自分が守れなかった妹の死。
そして、
託された命を持つ、自分ともう一人の妹の生。それと直向きに向き合ってきた
彼女は何を思ってここまで
過ごしてきたのだろう。
どんな道を辿ってきたのだろう。
小さな少女は小さな身体で、どんだけ大きなものを抱えてここまで歩いてきたのだろう。
彼女の事を考えたら、自然と自分の頬にも
涙が流れていることに気づいた。
再び目を合わせた僕ら。
もう蝉の声なんか聞こえない。
でも…
「なんでそれが僕と付き合う理由なの。」
「…香乃がいなくなった。昨日立川に友達と
行ったっきり帰ってこなかったの。」
僕は目を見開く。
僕と…僕と同じじゃないか。
「僕も兄が帰ってこない。」
すると彼女は知っていると言わんばかりに
頷いた。
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