第2章

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「私ね、とにかく不安になってすぐに探した。 今までこんなことなかったから。 香乃は中学校生だからもう心配ないって分か ってるけど、もう誰も失いたくなかった。 で、なんでいなくなったか、街の人に聞いた ら分かったんだ。」 ー僕らが住む、この八王子市は 優しい人が多い。 東京都の中ではかなりの田舎だが、僕はここにいる温かい人達が大好きだ。ー 彼女は一拍置いて言う。 「香乃は、過去か未来にいる。」 真っ直ぐな瞳が、泳ぐ僕の目をとらえる。 「過去か、未来…?」 彼女が言うには昨日ニュースでやっていた アプリの“トキスト”が故障したらしい。 本来なら、時間を売った者も買った者も、 その時間が経てば元の時空に戻れる。 それなのに、メカトラブルによって 戻れなくなってしまったそうだ。 突然僕の頭のパズルがパチっと音を立てて はまっていく。 兄ちゃんが帰って来なかった理由。 きっとアプリで未来に行ったんだ。 そして兄ちゃんは家に帰ってきてテレビをつけた。だから兄ちゃんから見た、過去にいる僕 の世界ではテレビが付いていたんだ。 朝のドアの鍵だってそうだ。 どんどんパズルが完成に近づく。 朝僕が見た人達だって…。 きっと消えた人達は過去か未来へ 飛んでいったんだろう。
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