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だが女の子はきょとんとして言った。
「これ、絵本じゃない…。」
そう、僕が持ってきたのは「絵のない絵本」
であり、僕が書いた本だった。
「むかーしむかしあるところに、おひめさまと
おうじさまがいました。おひめさまのおなまえは、“こに”といいました。
こには、じぶんのだいじな
ほうせきをなくしてしまって、ないていましたが、そこにおうじさまがやってきました。
おうじさまは、いえをぎゅーっとして、
「きみはえがおがにあうよ。」といってくれました。こにには、おうじさまの
えがおが、ほうせきのようにみえました。
ふたりはそれからえがおでいっしょに
くらしましたとさ。おしまい。」
本をパタンと閉じて、いえの方を見ると、
衝撃の一言を彼女は発した。
「ぎゅーってして?」
宝石みたいに光る、泣き腫らしたあとの瞳で。
僕はゆっくり近づき、
不器用に彼女を抱きしめた。
「もう泣かないでね。」
「うん。」
そして彼女はもう笑っていた。
無理して笑っているのではなく、
心の底からのキラキラと光る眩しい笑顔だった。
その次の日、彼女はもう友達を作っていたが、
あれから僕らが話すことはなく、いつの間にか
彼女は施設からいなくなっていた。
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