第1章

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そして幼い頃から両親がいなかった僕たちは 児童養護施設に入っていた。 でも、僕はそこに悪い思い出はなく、 意外と満喫していたように思う。 施設の人が、本を読んでくれたり、 鬼ごっこしてくれたり。 そして何よりも僕は絵本を描くのを 楽しんでいた。 けどそれは、「絵のない絵本」。 僕は絵を使わずに景色や表情を想像するの が本当に好きだった。 そして今も変わらず、 小説を書いていたりもする。 自分が相手に伝えたい事を、 上手く言葉を操り、 読み手に伝えられたときは本当に嬉しい。 僕にとっては一種のコミュニケーションだ。 そして僕が小学生、兄ちゃんは中学生 になった時、僕らは二人暮らし をするために施設をでた。 施設をでる時は不安と寂しさで 泣き出してしまったのを今でも鮮明に 覚えている。どうしても涙が止まらなくて。 でもその時、施設の先生方が 一冊の本をくれた。 その本は、当時の僕には読めない漢字と 意味の分からない言葉で溢れていた。 本のページをめくってから口が開きっぱなしの僕に先生は言った。 「この本が読めるように、頑張ってお勉強して成長するのよ。男らしくね!」 そう言って笑っていた。 いつのまにか僕の涙は引っ込んでいた。
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