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次の日の朝、若干寝坊してしまい大急ぎで仕事に向かって走る。
「すいません、寝坊しました」
荒れた呼吸を整わせる暇もなく大きく肩を上下させながら裏口から滑り込む。
「大丈夫、ギリギリセーフだ」「普段のお前が早すぎるんだよ」
先輩達が笑いながらバンバンと背中を叩いてくる。叩かれたせいで汗ばんだ背中にシャツが余計に張り付いてしまうがその不快感も気にならないぐらいの安心感で満たされる。
先輩達から開放されたらすぐにこんな格好で行ったら笑われるだろうなぁ。と心の中で呟きながら友人達が待つ持ち場へと急ぐ。
申し訳無さと恥ずかしさに押しつぶされそうになりながら壁越しに覗いてみると普段とは違い青ざめた表情の友人が足元の小瓶に気付かずに盛大に転ぶ瞬間だった。
「…あぶないっ」と大慌てで受け止めに入ると友人と友人が抱えていた荷物が一斉に僕にめがけて降り注いでくる。
先輩達ほどの筋肉も体感も持ち合わせていない僕は受け止めきれずに友人のクッションになるようにして転んでしまった。
「いてて…すいません、考え事してて…」と呟きながらゆっくりと起き上がる友人は転んだ相手が僕だと気付いた瞬間に目を見開いた。
「お、お前大丈夫だったんだな!」
「今現在はどちらかといえば大丈夫じゃないけどね」
そうジト目で友人を見上げると友人は慌てて僕の体から飛び降り手を貸してくれる。にくい事に僕より背が高く筋肉質な友人はそこそこの重量があったから体のあちこちが少し痛む。
「昨日の晩は大丈夫だったか?」
「…何が?」
「昨日の晩のまた連続殺人犯がでてさ…事件の現場がお前の帰り道の近くだったから…」
「またでたのか、最近頻度上がってきてるよな…」
最後に出たのがたしか一昨日…。前は2週ほど期間があり、その前は1月…。現在で合計6人の被害者がでている。毎回暗い夜の路地裏で反抗が行われている。そして犯人の目撃情報はなく、現場にも証拠を残さないために捜査が難航しているらしい。
ここまでの完璧な殺人を犯し続けている人間とはいったいどのようなものなのだろうか、もしかしたら、自分と同じような衝動を、快楽を知っている…
「ちょっと!あんた!私のこのドレスに合わせるようの赤い髪飾りしらない?昨日そこの机に置いておいたはずなんだけど!」
思考をつんざく高く大きな声が僕の鼓膜を突き抜ける。
あわてて周囲を見渡すと楽屋から姐さんの中でも特に気難しい姐さんに首根っこを掴まれる。
友人は「あーあ、かわいそうに」とでも言わんばかりの表情を一瞬僕に向けてから「俺先輩に聞いてきてみます!」と元気いっぱいに逃げ出す。僕を残して。
そして「見つからなかったらどうしよう!今日はお得意様が見に来る予定なのよ!!」と怒り狂う姐さんをなだめるために精一杯知恵を振り絞らされることになった。
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