でぶ猫の計算

2/8
前へ
/8ページ
次へ
「汚い猫だなぁ」  私が正直な感想をいうと、妻も同意した。 「そうねぇ。しかも、すごいメタボ体型ねえ。私より酷いかも」 「うん、そうだね。あんなに太った猫は見たことがない」  すると、妻は機嫌を悪くした。 「ちょっと! 『私より酷い』って私がいってるのよ? こういうときはね、嘘でもいいから『酷くなんてないよ、君は素敵だよ』とかいうものなのよ。旦那様は」  私は適当な相槌(あいづち)をうって、鍵を開け、妻を家の中に押し込んだ。肌寒い秋の日の下で、夫婦喧嘩なんてやるもんじゃない。  それからまた苦労しながら、私たちはリビングまでたどり着いた。妻は椅子に大仰に座って、やっと一息つくことができた。 「奥さん、お疲れ様」 「うん、あなたもお疲れ様」  ネクタイを外しながらカーテンを開けた。柔らかい日光がリビングを明るく照らす。窓の正面には庭があり、私たち夫婦は、窓を挟んで野良猫と向かい合う形になった。  妻が大きくため息をついた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加