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「汚い猫だなぁ」
私が正直な感想をいうと、妻も同意した。
「そうねぇ。しかも、すごいメタボ体型ねえ。私より酷いかも」
「うん、そうだね。あんなに太った猫は見たことがない」
すると、妻は機嫌を悪くした。
「ちょっと! 『私より酷い』って私がいってるのよ? こういうときはね、嘘でもいいから『酷くなんてないよ、君は素敵だよ』とかいうものなのよ。旦那様は」
私は適当な相槌をうって、鍵を開け、妻を家の中に押し込んだ。肌寒い秋の日の下で、夫婦喧嘩なんてやるもんじゃない。
それからまた苦労しながら、私たちはリビングまでたどり着いた。妻は椅子に大仰に座って、やっと一息つくことができた。
「奥さん、お疲れ様」
「うん、あなたもお疲れ様」
ネクタイを外しながらカーテンを開けた。柔らかい日光がリビングを明るく照らす。窓の正面には庭があり、私たち夫婦は、窓を挟んで野良猫と向かい合う形になった。
妻が大きくため息をついた。
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