でぶ猫の計算

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 目が回りそうな忙しい日々が続いて、数か月後のある日。  妻は娘に寄り添って昼寝をしていた。私はその姿を眺めて、穏やかな気分でコーヒーを飲んでいた。夫婦ともに夜はなかなか眠れないけど、娘が日中に眠るわずかな時間は、小休止がとれる。  リビングには春の陽光が差し込んでいて、空気は温かい。  あのブチの猫は、部屋の一角で、仔猫たちと一緒に寝っ転がっている。仔猫は眠っているようだ。きっと猫にとっても今は子育ての小休止なんだろう。  ふと思いついて、私は話しかけた。 「なぁ、お前」  猫が首を向ける。 「お前、知ってたんだな? うちの奥さんが妊娠してたこと。この家で飼われることも計算してたんじゃないのか?」  猫は私の目を正面から見つめた。まるで人の言葉がわかっているようだ。見れば見るほど、可愛くない。私はそう思う。  不意に、猫は口元を歪めて、笑っているようにしか見えない表情をした。  うまくいったでしょ?  その顔は、そう語っていた。
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