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可愛くない猫だった。
毛皮は白黒のブチだが、薄汚れてツヤもない。顔に刻まれた大小の爪の跡は、喧嘩の強さを物語っていた。首輪は付けていないから、きっと野良だろう。しかし野良にあるまじきほどに太っていて、ぽっこりお腹は中年男性のようだった。
「なぁに? あの猫! あんなの見たことないよね?」
妻がいった。
それは私たち夫婦が病院から戻ったときのことだ。
この頃の妻は歩くのも辛そうで、死にかけのアヒルのように、よたよたと移動するのが常だった。
苦しいのは私も同じことだった。妻を車から降ろすのも、玄関先まで連れて行くのも、重労働だ。夫婦そろって運動不足だったのも一因だろうが。私は汗をぬぐいながら自宅の鍵を取り出そうとしていた。
そこで妻の言葉を聞いて振り返ると、問題の野良猫がいたのだ。
そいつは、我が家のささやかな庭のど真ん中で、だらしない身体を横たえていた。
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