気配

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気配

車の中で ガチガチに凍りついてしまった食材のダンボール箱を家に運び込む。 何となく部屋の空気感が 昨日までとは違うような気がする。 何だろう? 何かが 変わったろうか? 部屋を見渡した私は ハッ とした! 絵だ。 昨日まで 描きかけていた 4枚の絵のうち 2枚の絵は明らかに違っている。 私がいない間に 誰かが 色を加えたらしい。 素敵だ! その色彩の輝きに 私は胸が高鳴る。 自分には 絶対に出せない色。 私は その美しい色の近くに寄り そっと指で触れてみる。 なぜか もう 油絵具は乾いている。 一日で油絵具が乾くはずないのに・・ 背筋が ゾッとする。 ふと 窓の外に 人の気配を感じる。 恐る恐る 窓に近づいて見ると 多分 あの車を止めた昨日の雪だらけの男が 雪かきをしている。 まだ雪は降り続いていた。 考えてみると これだけ雪が積もっていたら 除雪しなければ 玄関のドアだって簡単には開けられないはず。 さっき何の苦労もなく車庫まで行けたのは不思議なことである。 そうか。 彼が雪をよけてくれたんだ。 この寒いのに なんだか気の毒だ。 こんな ひどい吹雪の中 除雪してくれているんだ。 あたたかい飲み物くらい用意して お礼を言うべきだろう。 だが私は その男に 声をかけるべきかどうか迷った。 まるで知らない男を 家に入れるのは不安だった。 何かあっても 隣の家まで50メートルは離れているし 吹雪で道も開いてない。 迷っているうち いつの間にか 雪は止み あの男も いなくなった。 私は 少し後悔した。 私は なんて冷たい人間だろう。
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