1/1
前へ
/37ページ
次へ

私は すっかり外に出る格好をしていたので どうせだから少し 除雪しようと そのまま外に出た。 家の窓の周りや 車庫や 裏の小屋の周辺を少し除雪した。 大方のところを 名も知らぬ彼が 除雪してくれていたので 私は 今 降り積もったばかりの雪を サラッと片付ける程度。 絵ばかり描いていると 肩が凝るので 気晴らしの運動みたいなものだ。 除雪にも疲れ もう遅いのでシャワーして寝ようと思い 家に入る。 「えっ?」 私は 声を出して 驚いた。 さっきまで玄関に山と積まれていた薪がない。 見ると ストーブ脇の薪を入れる箱に きちんと薪は収納されている。 a0458bf7-ba84-4597-bf66-d8fc13300b97 不気味だ。 親切は ありがたいけれど。 私が外に出ている間に 勝手に家に入ったんだ。 怖い。 私は 家の中のどこかに 彼が潜んでいるのではないかと思うと パチパチと燃え盛る薪の炎を見ながら 背筋が凍っていく。 「どこにいるの?」 私は 見えない誰かに声をかけた。 返事はない。 ふと 気がつくと『冬の森』の絵が また加筆されていた。 絵の中の 松の枝に降り積もった雪が 白い輝きの中 絶妙に虹色を反射し やわらかく優しい空気を生み出している。 この絵の近くに立っているだけで 冬の匂いがする。 「誰なの? お願い 出てきて!」 私は そう声をかけながら 家の隅々を見て回った。 けれど 家の中に 彼はいなかった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加