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芽生え
寝室は 2階だ。
下の薪ストーブの太い煙突が 2階まで吹き抜けの空間をあたためているので 余程 寒い夜でもなければ 寝室のストーブをつける必要はない。
寝室の扉を開けておけば 自然に温められた空気が対流するので いつも薪の炎が作り出す やわらかなぬくもりに包まれて 心地よく眠ることができる。
その夜 奇妙な夢を見た。
男が 私の眠っている間 台所で何か作業していた。
男は 私の『春の森』の木の芽に命を与え 鳥のさえずりを描き加えようと試みているらしかった。
夢の中で 明け方 また雪が激しく降り出し 男は除雪しに外に出た。
ザザッ ザザッ と 夢か現実か 彼が除雪する音が ずっと聞こえていた。
朝 目覚めた時 冬の低い太陽の日射しは 家の奥まで明るく満たしていた。
おやっ!
居間の窓辺の外側に 握りこぶしを二つ重ねたくらいの 小さな雪だるまが 家の中を覗き込むように 置かれていた。
細い木の枝の腕 小さな石ころの目と口 枯葉が二枚 耳のように頭に刺し込まれ 何とも言えない かわいい雪だるま!
私は 思わず 微笑んでいた。
私は パジャマのまま玄関のドアを開け
「ありがとう・・・ 雪だるま ありがとう!」
と 大きな声で叫んだ。
姿は見えなくても きっと どこかにいる と思った。
それから台所へ行ってみると カボチャが きれいに切り揃えられ まな板の上に並んでいた。
昨日の夜 私は 近くの農家の方からいただいたカボチャを切ろうとしたけれど 硬くて どうしても切れなかった。
無理すると 手を切ってもいけないので あきらめ 明日 また考えようと思い放置してあったのだ。
カボチャのなかわたと種は まとめてポリ袋に入れられていた。
私は ため息をついた。
ま いい。
よく わからないけど 彼は悪い人ではなさそうだ。
私は さっそくカボチャを煮込み 朝ごはんの代わりに食べた。
美味しくできた。
「美味しいわ。あなたも 好きなだけ食べていいわよ。ありがとう。いろいろ助けてくれて。」
私は どこかにいるはずの彼に そう言った。
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