冷たい君のこえ

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「話すことといっても、そう大した話はないんだけどな、刑事さん」 「そりゃあ、あなたにとってはそうかもしれないけど」 「それでもよければ、……喜んでお話しするよ。僕と、コノハのこと」  公園のベンチに腰掛けた若き刑事は、ひとつ隣に座る木野下弘行に、「聞かせてもらいましょうか」と話を促した。木野下は小さく頷いて、刑事から視線を切って、公園の広々とした芝生に目を向ける。 「ここは、僕がコノハと初めて出会った場所なんだ」 「何だ、覚えてたの。すっかり忘れられてると思ってた」 「忘れられるはずもない。刑事さんには惚気を聞かせるようで申し訳ないけれど、初めて出会った時、本当に驚いたんだ。こんなに綺麗なひとが存在するのかって」 「ほんと、あなたってばいつもそんなこと言って。……悪い気はしなかったけどね」  刑事はその言葉を聞いて、ほんの少し口の端に笑みを浮かべる。このような場で笑ってみせるのは不謹慎かもしれないが、率直に、ほほえましいと思ったのだ。 「そう、悪い気はしなかったし、わたしだって嬉しかったの。あなたのような人に出会えてよかったって、その時には本当に、本当にそう思ってた」 「僕はね。幸せ者だと思ったよ。コノハにも気に入ってもらえて、それからお付き合いが始まったんだ」
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