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「あなたってば、蓋を開けてみれば本当におっちょこちょいで、注意力散漫で、わたしがいないと何にもできないんだから」
「そう、僕は色々と足らないところが多くて、よく怒らせてしまったね」
「怒ったんじゃないわよ。確かに、ちょっときついことは言っちゃったかもしれないけど……」
「勘違いしないでほしいのは、……そういうところも、好きってことなんだ」
「…………っ」
「怒ってるときに口を尖らせるところとか、僕に投げかけてくる言葉の一つ一つとか、そういうものが愛しくてたまらなかった。刑事さんにはわかるかな、そういう気持ち」
刑事は「わかる気はするね」と相槌を打つ。人を好きになったことがないわけではないし、好きになればちょっとした挙動の一つ一つに愛しさを感じることも、まあ、わからなくはないのだ。
「恥ずかしいこと言わないでよね」
「恥ずかしいことかもしれないけど、……僕にとっては、大切なことさ」
言葉を切って、木野下は刑事に視線を戻した。木野下の、切れ長の目に宿っている陰りがにわかに色を増す。
「だから、どうして」
「なら、どうして」
「コノハが殺されなきゃいけなかった」
「あなたに殺されなきゃいけなかったの?」
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