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第二話 後輩の兄
数時間後、昼休みになり食堂に向かうといつもは弁当持参の雨宮くんが珍しく居た。僕は食券を買ってAセットを受け取り雨宮くんの隣に座った。
「雨宮くんが食堂に居るの珍しいね」
「そうなんですよね。昨日からうちの嫁が実家に帰ってて。だから今日は弁当無しです。そんで、そのことを昨日の夜に兄貴に話したらうちに来て食べてけとか言われて、食べたんですよ」
雨宮くんの家はご両親が居なく、お兄さんが父親代わりをして育ててくれたと結構前に話してくれた。そしてお兄さんは弟である雨宮くんを今でも可愛がっている様子が織で垣間見えて微笑ましく思っていた。
「そうなんだ。兄弟って良いな。僕は男兄弟が居ないから羨ましいよ」
「そうですか。うちの兄貴は嫁さん居るのに未だに俺の世話をやきたがるので本当に勘弁して欲しいです。この前なんか、俺の嫁が友達と旅行に行くとかで、家を空ける時にわざわざ兄貴に連絡したもんだから大変だったんですよ」
雨宮くんのそんな家族の話を聞きながら家族って良いなと思っていた。
それから四時間ほどして定時時刻になった。
「本当に陸は来ないの?」
「行かねえって」
もう一度陸を誘うとそう言って帰ってしまった。
「湊先輩、お疲れ様でした」
「あ、うん。お疲れ」
岩崎さんが帰っていき僕は雨宮くんと二人で織に向かった。
「いらっしゃいませ。あ、裕真くんに結城さん。いらっしゃい」
雨宮くんのお兄さんのお嫁さん、詩織さんが笑顔で出迎えてくれた。
「カウンターにどうぞ」
智紀さんがそう言うとカウンターの椅子を少し下げてくれた。僕たちはそこに腰掛けいつもの珈琲を頼んだ。
「ちょっと待ってて下さいね。あ、結城さん。いつもすみませんね。うちの弟がご迷惑をおかけして」
「いえいえ迷惑だなんてそんな。裕真くんに僕が迷惑をかけてしまっているぐらいです」
僕と智紀さんの会話に雨宮くんが兄貴、余計な事を言う言うなよと言った。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか。今、カウンターのみのご案内になってしまうのですが」
「大丈夫です」
詩織さんが新しいお客様を連れて僕の隣に案内した。
「あ」
雨宮くんが声を出して驚いている。隣を見ると笹倉さんが疲れた顔をして座っていた。
「お疲れ様です」
「何、貴方達も来ていたの。ここのお店の雰囲気、良いわよね」
僕が声をかけると店の中を見渡してそう言った。
「ありがとうございます。裕真、この女性は知り合いか?」
智紀さんに聞かれた雨宮くんは俺の上司で笹倉凛さんと答えた。
「そうか。あの、いつもうちの弟の雨宮裕真がお世話になっています。こいつの兄です」
「あら、そうなんですか。裕真くんは良くやってくれていますよ」
笹倉さんはそう言うと微笑んだ。そんな顔を見せる笹倉さんを初めて見た僕は思わず可愛いなと思ってしまった。
「笹倉さんって、笑うと可愛いんですね」
「こら、裕真」
雨宮くんが僕の心を読んだかのような発言をして智紀さんに怒られていた。
「だって、会社に居る時はそんな顔見た事ないですし。結城先輩もそう思いません?」
怒られてもなおそう続けて僕は静かに頷いた。笹倉さんは照れているのかを頬を赤くしている。
「ありゃ、何か良い雰囲気ですか。兄貴、結城先輩と笹倉さん、もう帰るって。詩織さん、このお二人さんのお会計お願いします」
「あ、うん。わかりました」
雨宮くんが詩織さんに言って流れで会計を済ませて外に出てしまった。
「……何か、追い出されちゃいましたね」
「そうね」
二人で追い出されても話が続かなかった。続かないどころか、もう早々とこの場を後にしたいという気持ちすらもあった。
「じゃ、僕はこれで」
「待ちなさい。もう少し私に付き合いなさい」
僕が帰ろうとすると笹倉さんにそう言って止められてしまった。仕方なく笹倉さんの後に付いていき近くの居酒屋に入った。
「私は生ビール。結城、貴方はどうするの」
笹倉さんの迫力に思わず同じものを頼んでしまった。
僕はビールは飲めない。と言うか、お酒自体が弱くて飲めない。昔、陸と一緒に居酒屋で飲んだ時もすぐにばててしまって家に帰る事も出来ずに陸の家に泊めて貰った事があったぐらいだ。
「お待たせしました。お通しと、生ビールです」
店員さんが注文した物を置いていった。
「結城、とりあえずお疲れ様」
「あ、はい。お疲れ様です」
ビールを持つ笹倉さんと乾杯をして飲んだふりをした後そのまま机に置いた。
ー続くー
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