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毎朝の習慣。
高蔵彩香は藤山高校の校門を抜けると、おびえた顔で左右を見回していた。
毎朝の習慣。
下を向いて目立たないよう細心の注意を払い、小走りで正面玄関へと急ぐ。
そこから階段を上がる。
二階は彩香たち二年生の教室が並んでいる。
紺のブレザーの制服。セミロングの髪にふっくらした顔。優しそうな表情。
少し大きな白い脚に紺のハイソックス。
笑顔がとっても似合いそう。
それなのに藤山高校では笑ったことがなかった。
玄関まであと少しのところだったのに・・・
彩香の顔が凍りつく。
玄関前。
背が高くスラリとした女生徒が四人の女生徒と一緒に待ち構えていた。
ブレザーの襟に「生徒会」バッジ。
長い黒髪の美人なのに、時々口元に冷たい笑い。
その笑いというのは、たいてい高蔵彩香に向けられる。
彩香のクラスメイトで生徒会長。成績は学年ベスト10に入る美景七瀬。
男子の人気はたぶん学年トップ。
「一緒についてれば何かいいことあるだろう!」
回りは親衛隊の女子生徒でいっぱい。
今日は新田、福永、中島、内海の四人。
「高蔵!何のんびりしてるの」
四人の取り巻きが口々に叫ぶ。
「チョコレートどうしたの」
「明日の十四日は土曜日で休みじゃん。
今日渡さなきゃ、チョコ、あんた食べることになるんだよ」
「うちらだって今日、渡すんだよ。たくさんチョコレート持ってきた」
「あんたって本当に常識知らないんだから・・・
もうダメだよ」
彩香はおびえた表情で立ち尽くす。スクールバッグをしっかり胸で抱いている。
「高蔵って一馬のこと好きなんだろう。うちらに告白したもんね」
彩香の顏が一瞬で真っ赤。
あれは去年の暮。
裏門の近く。
「誰が好きなんだよ。何で言えないの?」
七瀬をはじめ三十人以上の女子に囲まれて、ムリヤリ告白させられた。
「一馬にチョコ渡すんだろう」
彩香は下を向いたまま、うなずいた。
「だけど私・・・今日十三日だから・・・チョコ渡さないと・・・思ってたから」
かすれた声が答え。
「だから十四日が土曜や日曜だと、前の日とかに渡すって言ってるだろう。
あんたのために教えてやったんだよ」
それまでずっと腕を組んで黙ってた七瀬が薄く笑った。
「私、一馬と仲いいから裏門の近くで待ってるように言っといてあげるから!
授業終わったらすぐ帰ってチョコレート持ってきて。
自転車に乗ればすぐ学校に戻ってこれるでしょう。
私が恋のキューピットをしてあげる」
彩香を完全無視する!
授業中、大声で悪口を言う!
足をひっかけて倒す。
持ち物を隠す!
背中に「私、バカです」と書いた紙を貼ってムリヤリ廊下を歩かせる・・・
彩香のお金を自分たちで私物化する。
彩香に集中するいじめ!
それを後ろに立ってみんなに命令する七瀬。
その七瀬が恋のキューピット?
本当なの?
実はやっぱり裏があったんだ。
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