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二月十三日の放課後。
最後の放課後を迎えた彩香は学校の裏門の近くまで来た。
裏門の近くの大きな樫の木の下。
めざすカレがいた。
樫の木のそばには大きな倉庫。
彩香は放課後、全力疾走で自宅に戻った。
ピンクの包装紙に赤いリボンを結んだ大きな箱をトートバッグに入れた。
中には心のこもった手作りのハート型チョコレート。
彩香は自転車に乗ってあわてて学校にトンボ帰り。
(一馬くん。待ってるだろうな。
ごめんね。私のせいで帰れなくて!)
一生懸命、ペダルを漕ぐ。
(ずっといじめられてた私に・・・
一馬くんひとりだけ優しかった。
声かけてくれたし、ぼっちの私と一緒にお弁当食べてくれた。
授業の前に教科書取り上げられて困ってた私に、どこからか借りてきてくれた。
同情だって分かってる。
私のこと、好きなんかじゃないって分かってる。
だけど私・・・
一馬くんのこと・・・)
彩香は自転車通学を認められてはいない。
学校の裏門の外にある森に自転車を隠した。
そのまま、あわてて裏門から学校に入った。
一馬のもとに急ぐ。
「高蔵さん」
一馬が優しく声をかける。
「待たせて本当にごめんなさい」
「気にしないで!
高蔵さんが俺に用があるって、美景さんから聞いたけどなんだった?」
「あのね。これを!」
差し出されたチョコレート。
彩香は恥かしくて目を閉じている。
だけど何の返事もない。
チョコレートはそのまま手の上。
そっと目を開ける。
そこには一馬の不機嫌な顔。
「どういうこと?これ!」
「あの・・・バレンタインだから私・・・」
思いがけない一馬の反応。
彩香はキョロキョロ左右を見回す。
そしてもっと思いがけない反応が!
「今日、二月十三日だよ。
それくらい知ってるだろう!」
一馬の舌打ち。
彩香の表情が一瞬で真っ青になる。呼吸が速い。
体が左右に大きくぐらつく。
「だいたい今日、十三日の金曜日だろう。
何のマネだ。
俺、こんなイヤガラセされるような覚えないよ。
ふざけんなよ」
彩香の両目から一気に涙がこぼれる。
勇気を出して一歩前に進み出る。
心をこめて、もう一度チョコレートを差し出す。
「違うの。私・・・」
「十三日の金曜日。地獄からのプレゼントか!
いらねえよ」
チョコレートが地面に叩きつけられた。
一馬の靴に踏みつけられ、三時間以上かけてつくったったチョコレートが泥まみれになった。
「ごめんなさい。ごめんなさい!」
彩香は自分のチョコレートがグチャグチャになるのを見て泣き崩れた。
泣きながら涙と一緒に「ごめんなさい」を繰り返した。
気がつくと一馬の姿はなかった。
ハハハハハハハハハ
笑いの合唱が響き渡る。
合間に言葉が入る。
「バーカ!」
「キモ女!」
「地獄の使者!」
「ゾンビー・タカクラ」
七瀬をはじめ、クラスの女子生徒二十三人が集まっていた。
男子生徒も十人近くいる。
今まで倉庫に隠れていたようだ。
美景七瀬が前に進み出る。
彩香を指さし、さわやかに呼びかける。
「十三日の金曜日にチョコレートをプレゼントして見事赤点を取った高蔵彩香さんに大きな拍手!」
大きな拍手に口笛。
あちこちから石が投げられる。
彩香は黙って下を向いていた。
拍手が終わる頃。
グチャグチャになったチョコレートをそっと拾って胸にしっかり抱きしめた。
母親の言葉を思い出す。
「材料、お母さんが揃えてあげる。うまくいくといいわね」
母親のあたたかい笑顔を心に浮かべる。
それから涙でベトベトになった顔でクラスメイトを見回した。
何も言わずに裏門に向かった。
「さようなら」
「キモチ悪いんで死んでください」
「もう学校に来ないで」
見送りの言葉が飛び交う中・・・
彩香の姿は見えなくなった。
二度と学校に現れることはなかった。
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