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【う】嘘に塗れた幸福をあの人のために捧ぐ
初夏の青々とした木々の上に、静かな雨が降り注いでいる。
「俊輔」
雨音に紛れそうなほどに、小さい声が呼んだ。
「はい」
「明日は、晴れるかな」
「きっと、いい天気になりますよ」
「藤の花は、もう咲いたかな」
「ええ。もう少ししたら、見に行きましょう」
「皆でね」
「ええ皆で」
木戸は削げた頬に笑みを浮かべる。
「楽しみだね………」
「ええ」
応えながら、伊藤は唇を噛む。
ねえ、木戸さん。
どうか気づかないで下さいね。答える僕の声が、かすかに震えている事に。
☆
伊藤博文(俊輔)と木戸孝允。伊藤独白。
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