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放課後になる。地獄までのカウントダウンはあっという間に過ぎていった。僕は重い足取りで校舎裏に辿り着く。そこには目付きの悪い人達が5人。
これから起こることなんて分かりきってる。
「おっ、やっときたか」
「それじゃ~やっちゃいますか」
手首をポキポキと鳴らしながら、嫌な笑みを浮かべ、近づいてくる5人組。
僕は諦めたように鞄を地面に落とすと目を閉じた。
※
「うっ…」
暫く意識を失ってたようだ。
誰もいない状況を確認しながら頭を起こす。
口が切れたみたいで鉄の味がした。
頭痛が酷い。体の節々も痛かった。
眼鏡、割れてないかな。
眼鏡を外してみると、無事のようでヒビは入っていなかった。
視界を邪魔する前髪をかきあげると夕暮れの空が視界に映る。
僕がどんな酷い状況に合っても、変わらない世界。
僕の存在など、この世界に必要ないものでしかないのだろう。
そんなことを考えながら空を眺めていると影が僕を覆った。
目線を動かすとそこにはサラサラロングヘアーの可愛らしい少女がこちらを覗いていた。
「やば、超イケメンじゃん。」
まじまじと見られ、たじろぐ。
いつの間にいたのだろうか。
そんなことはお構いなしにその子は近づいてきた。
「大丈夫?怪我してる。ウチ、絆創膏あるよ」
そう言って絆創膏を取り出し僕の唇の端に貼ってくれる。
何が起こったのか分からず唖然としていると女の子は連絡先交換しよと言ってきた。戸惑った僕は言われるがままにたどたどしい手つきでスマホを取り出す。
「へっ、零斗ってあの地味零斗?!嘘まじ?激やば眼鏡外せばイケメンとか漫画かよ。」
そう言って微笑んだ女の子はまたねと言い残し去っていく。
まるで、嵐のような出来事だった。
僕の心配をしてくれた。地味って言われたけど。
初めての出来事だった。
じわじわと嬉しさが増し顔に熱が集まる。
純粋に嬉しかった。
こんなに心が温まることなんだと知った。
お礼、言えなかったな。
そのことに少し落ち込んだけど今日は幸せな気持ちで帰宅した。
「ただいま」
いつもよりより弾んだ声が出た。
返事はない。家を覆う冷たい空間に、一気に現実へと引き戻される。
血の気が下がる。
いつも、心のどこかで期待してしまう自分に嫌悪した。
この時間、家には母しかいない。
父は有名な大企業の社長。忙しくほとんど家に帰ることがない。母は専業主婦として家にいるが家事は全部メイドがしている。兄と妹はサークルや生徒会の仕事で帰りが遅い。
兄妹がいないこの時間帯が、僕のほんの一時の至福の時間だ。
自分の部屋に入ると救急箱を取り出す。
慣れた手つきで自分の手当をしていった。
それが終われば勉強だ。
今までの復習から予習まで。
僕は容量が悪いから、勉強しないと成績が落ちる。1位を取ったことすらないというのに。これ以上、成績が悪くなるのは避けたい。
取り組んでから二時間後。僕は動かしてた手を止め、息を潜めた。微かに、ガチャリと玄関が開く音に僕は小さく震える。
妹だ。
「ただいまぁ~お兄ちゃん。待たせてごめんねぇ~すぐに可愛がってあげるから。」
甘ったるい、大きな声で僕に向かって声をかける妹。
カタカタと両手が震えだした。
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせるように呟きながら、僕は部屋を出る。
僕は、自分から妹の部屋に入るよう躾られている。
妹が帰って来て10秒以内に妹の部屋に入ってないとお仕置きが追加される。それはなにがなんでも阻止したかった。
「んー、今日は何にしようかな。コレかな、それともコレかなぁ!」
嬉しそうに歪なものを手に取って選ぶ妹。
「うん、これに決めた!」
暫く物色していた妹が手を止め1つの道具を取り出す。
その形状は大きな吸盤のようなものがいくつもある、小学生の腕くらいの大きさの玩具だった。その歪さに思わず一歩あとさずる。
「や、やだ」
「抵抗しちゃ駄目だからね!じゃないと、またお父様に言いつけるよ?」
その言葉に体が硬直する。
この言葉に僕はいつも、抵抗できなくなるのだ。
「じゃ、自分で濡らして…」
「やっぱり、ここに居たんだな」
妹の声を遮るようにドアが開く音がして、入ってきたのは兄さんだ。
いつもならもう少し帰りは遅いはずなのになぜいるのだろうか。
どのみち最悪な状況に変わりない。
僕は妹の指示通り動くために、衣服を脱ぎ始める。
妹は勝手に部屋に入ってきた兄さんに対して怒っていた。
兄である春樹はそれを聞き流すように僕の方に視線を向けている。
兄さんのねっとりとした視線が嫌で、僕は身をすくませた。
「今日は俺の実験で零斗は使わせてもらう。」
「はぁ?ふざけないで!今から美来がお兄ちゃんと遊ぶの!!」
「キーキーうるさいな。大人しく零斗を渡せ」
「い・や・で・すぅ~」
突然喧嘩が始まる。これはたまにある見慣れた光景だった。結末なんて分かりきっている。
「ではこうするのはどうです?」
「なによ!」
「二人で可愛がりましょう」
ほら、言うと思った。
妹は考える素振りをみせる。
考えてなどいないのに。答えは決まっているくせに。
「いいわよ。その方が零斗お兄ちゃんも悦ぶだろうし!」
悦ぶわけないじゃないか!
そう叫びたいのをぐっとこらえ脱いだ衣服を握りしめる。
「駄目じゃないか、零斗。下着も脱げ、衣服は全て必要ない。」
横目でジロリとこちらを覗く兄に、僕は無言でパンツを下ろした。
抵抗したら余計に酷い目に合うことは経験済みだ。
逆らわず大人しく言うことを聞いていた方がずっといい。
だとしても毎回下着を脱ぐことに躊躇してしまう。
もしかしたら今回は脱がなくても大丈夫なんじゃないかという淡い期待も抱えて。
そんな日などないことは分かりきってるのに。
「なんだ、まだ脱ぐのは恥ずかしいのか?顔が真っ赤だぞ」
顎を持ち上げられまじまじと顔を見つめられ思わず顔を横に反らした。
しまった!
我に返った時にはもう遅い。
怒りの形相こちらを見る兄さんに血の気が引いた。
「…今、俺を拒否したな。」
「ち、ちが…」
「お仕置き確定だな」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
あーあ、春樹兄を怒らせた。
そういう妹の声は弾んでいた。
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