1人が本棚に入れています
本棚に追加
先輩が抱えている霊問題の解決に、全力を尽くすという条件で、これから幽霊がいる場所へ連れて行ってもらうことになりました。
今、私は先輩の後ろを大人しくついて行っております。
「森山先輩! あの……」
「悪いけど今忙しい」
図書館への道のり。
「んで? お前にはどんなのが見えるわけ?」
私が弟子入りをお願いした先輩は、どうやら森山先輩と言うらしいです。
「幽霊の影響を受けている人が分かります」
「は? なんだそれ。まあいいけど、ちゃんと除霊手伝えよな」
先輩の近くにいたら幽霊が見えるかもしれません。
それに、どうやら先輩は除霊もできるようです!
除霊も習えるかもしれません。
でも、
「森山君! ちょっと話が」
「忙しい」
これで何人目でしょう。
多くの女の子が、森山師匠に声をかけています。
しかし森山師匠は、話も聞かずにその女の子たちをあしらってしまうのです。
「冷たすぎませんか師匠。可哀想です」
「師匠って呼ぶんじゃねえ。この能天気が」
ご機嫌斜めのようです。
「普段遊んでやってんだ。ちょっとぐらい突き放したって問題ねえよ」
根暗な印象を思わせる前髪に、一切着崩していない制服。
静かな性格の優等生だとばかり思っていましたが、私の予想に反して、彼は中々の遊び人のようです。
「それにしても寒いです。師匠、いつもはどうやって除霊をしているのですか?」
「馬鹿! でかい声でそういうこと言うんじゃねえよ。あと師匠じゃねえ!」
尚も森山先輩からは冷気が尽きることなく放出されています。
もしかしたら私が見えていないだけで、今も彼の近くに霊がいるのかもしれません。
「森山師匠、いえ、先輩。つかぬことをお聞きしますが、今近くに幽霊がいるのですか?」
私は興奮を抑えられずにそう聞いてしまいました。
森山先輩は煩わしそうにため息を吐きます。
「どこにでもいるんだよ。幽霊ってのは」
「そうなのですね! では今も先輩の肩に!?」
「煩い煩い煩い。ほんと黙れ」
周りの生徒が不思議そうに私達を振り返ります。
会話の内容も原因かもしれませんが、森山先輩の存在も注目を集めているように感じます。
「お前と話してるといつも以上に人の目を惹いちまう」
突然足を止め、先輩は怒りの表情を私に向けました。
「校門で待ってろ。俺は図書館寄ってからいく」
「それぐらいなら付き合いますよ」
「お前と一緒に歩きたくないんだよ。察せ」
仕方なく私は一人校門へと向かいました。
下校していく生徒達。
結構な人数が冷気を放っています。どれも森山先輩ほどではありませんが。
「ちょっとあんた」
突然、茶髪の女子生徒に声をかけられました。険悪な雰囲気を醸し出しています。
一年生はきっと皆下校しているので、この方は先輩なのでしょう。
「あんたさあ、森山先輩の妹か何かなわけ?」
あ、この流れは知っています。
この人はきっと森山先輩の彼女でしょう。あんだけイケメンなら彼女ぐらいいますよね。迂闊でした。
「次は私が森山先輩に告白する番なのよ。あんた一年? 今回は見逃してあげるけど、今後一切近づかないでよね」
彼女ではないようです。
でも、一体何のことを言っているのやら。
「おい」
「も、森山先輩!?」
ご本人登場です。
「変なルール勝手に作って盛り上がんないでくんない? 迷惑なんだけど」
森山先輩は冷めた目で茶髪先輩を見下ろしています。
茶髪先輩は顔を真っ赤にして唇を震わせました。
「だ、だって仕方ないじゃないですか。この学校の暗黙のルールですよ。先輩が、モテ過ぎるのがいけないんです」
先程とは打って変わり、随分としおらしくなってしまいました。
「だから何? 結局俺が不快に思ってたら意味ないのに」
一体どんなルールなのでしょう。
「……失礼します」
俯き、足早に私の前から去ろうとする茶髪先輩。
「次がつかえてんじゃないの? 今告白してけば?」
それを、森山先輩は辛辣な言葉で引き止めます。
茶髪先輩は一度止まって振り返り、悔しそうに顔を歪ませて走り去っていきました。
「ひっどい人ですね」
思わず本音が漏れてしまいます。
「本人そっちのけで訳分かんないルール作られてんだぞ? 俺に同情しろ。それでなくても毎日嫌なもん目にしてんだ」
先輩は私を追い越して歩き始めました。
「森山先輩。どこへ?」
「俺ん家。俺の部屋に住みついてんだよ」
どうやらこれから先輩の家にお邪魔できるらしいです。そう。霊が見える人の家に。
「楽しみです! 幽霊!」
「黙れ」
私は注目を浴びながらも森山先輩と共に下校しました。
最初のコメントを投稿しよう!