ルーム 2010.12.01

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ルーム 2010.12.01

20 時 55 分 机に置いたスマートフォンが振動する音で目が覚めた。 半分閉じたままの目でスマホを探り当て、振動し続けるアラームを止める。 首をゆっくり回すと小枝を踏みしめたような音がして、机でなんか寝るものじゃないなと心底思う。 机のうえに開いたままになっていたノートパソコンには、論文課題の文字列が並んでいて、夕方に大学から帰宅して開いたときから、何ら進んでいなくてため息をついた。 課題を上書き保存して閉じ、慣れた手つきでデスクトップの「天体観測」と表示されているアイコンを開く。 毎日この時間に鳴るよう設定したアラームは、中途半端な昼寝から起きるためのものではなくて、この「天体観測」を起動させる合図だ。 大学に入学してから約1年半毎日のように使ってきたサイトを慣れた手つきで開き、情報を打ち込みルームを立ち上げる。 ――――――――――――――――――――― [ルーム名]2010.12.01 [管理人] No.226 [利用制限]入室制限なし・チャット使用可 [観測日] 2011年12月1日 16:00~20:00 [観測場所]@青森県そうま天文台 [放映日] 2020.12.21 21:00~25:00 [管理人コメント] 誰でもお気軽にご参加ください。 ――――――――――――――――――――― 手慣れた定型文に面白味がないのは分かっているが、盛んな交流の場を作る気は更々無いのでこれでいい。 ただ私がこの日の天体を眺めていたいだけの場所だ。 この「天体観測」は、100万人以上の登録者数がいるコミュニティサイトで、過去20年の好きな日・時間の夜空の映像データを使うことができる。 ユーザーは管理人として天体観測をするコミュニティルームを立ち上げ、自分の好きな時の夜空をプラネタリウムのように画面に放映することができる。 流星群の観測日やメジャーな天体ショーがある日は、生中継もあって家の中で、ぬくぬくと冬の流星を観られるのは、これでいいのか?と不思議な気持ちになりつつ深夜の寒空に出ていく気力も無いのでありがたい。 また他のユーザーが立ち上げたルームや放映している夜空に興味を持った人がルームに参加して、天体観測を楽しんだりチャットで会話や解説をしたりして楽しむこともできる。 どんな天体が好きだとか、こんな話をしましょうみたいなコメントをいれたルームを作れば、ほんの少しは盛り上がるのだろうか。 ぼんやりと考えながら、誰も参加者のいないルームと指定した日の夜空を眺めた。 「んーーーっ」 パソコンはそのままで椅子から立ち上がり、伸びをする。 寝過ごしてピークを過ぎてしまったお腹の減りを満たすために冷蔵庫を開けた。 「何もない、よなぁ」 ひとり暮らしの冷蔵庫に、都合よく小腹を満たせるものなんて入っていない。 コンビニはすぐ近くだけれど、一度部屋着に着替えてしまうと外に出るのがとても億劫に感じる。 それでも、明日の朝食べるようなパンや、ちょっとしたものも何も無いのを確認して諦めて買い物に行くことにした。 昼間に大学に行った時に履いていたデニムに、裏起毛のパーカー、ダウンを着てグルグルにマフラーを巻いた。 昼は穏やかな天気だったが11月も後半となった夜は、寒暖差が激しく重装備が欠かせない。 準備を整えて家を出る前に、パソコンに表示されたままになっているルームにチラリと目をやる。 ✔《チャット》 見ていない間にチャットに新着表示が出ていて、もこもこのダウンを着たまま、椅子に座りチャットを開いた。 ダウンのせいで、椅子の手前に浅く腰掛けることになって何となく座り心地が悪い。 《 No.226がルームを開始しました》 〜〜〜 《 No.1617が入室しました 》 入退室の履歴が何件かチャットに追記されていた。 3・4人が入室して、特に面白味のない部屋だと分かり退出していたのが分かる。 いわゆる過疎で面白味のないこのルームでも、物好きな常連がいる。 「ナンバー1617」 今日も数分前の入室履歴しか残っていないので、まだこのルームに滞在しているのだろう。 ユーザー名が初期のナンバー表示のままなのことに、何となく親近感が湧くが特にチャットで挨拶を交わすようなことも無い。 それでもかなり高い頻度でこのルームに滞在するので、単純に私の流している日の夜空が好きなのだろうか、 特に返信するようなチャットも残されていなかったので、そのままエコバッグに財布だけ突っ込んで家を出た。 冷たい空気がマフラーと顔の隙間や、デニムと靴の隙間から入り込んできて、体を縮め早足でコンビニへ向かった。
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