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優馬は初めて出会った時から謎めいていた。転校初日から、その端麗な容姿で学校中の注目を集めた。色素は薄く、瞳は見ているこちらが吸い込まれそうになるほど大きく、キラキラと光りを反射している。フッと微笑んだだけで、男子生徒も女子生徒も先生たちさえも関係なくポーっとのぼせ上ってしまう。存外に口数は多く、クラスの中心となるのに時間はかからなかったが、なぜか自分のことはしゃべらず、皆彼がどこから来たのか、どこに住んでいるのか、どこに行くのか、ということは誰も知らなかった。いつも、巧妙に自分の話題からはぐらかしてしまうのだった。皆いつの間にか優馬の話をしているつもりが、自分の話をさせられていることに気づいていたが、いつどこでどうやって話がすり替わってしまったのか、誰も気づけなかった。優馬はいつも余裕がある。勉強もスポーツも楽々とこなしていて、誰の目にも完璧な存在として映った。
あるとき、珍しく優馬が授業中に心ここにあらずといった調子で窓の外をぼんやりと眺めていたことがある。ちょうど雨上がりの頃、町の北側にそびえ立つ山の麓には、おいて行かれた雨雲の切れ目から、雨を洗い流すような光のシャワーが降り注いでいた。優馬は取りつかれたように、その光を見ていた。まるで、雲の向こうに何があるのか、知りたがっているような様子だった。その目に憧れと孤独、渇望を見た。その表情には、憂いがあった。それを確認できたのは一瞬だけだったが、僕は強烈にその瞳に惹きつけられた。それを見たのは僕だけだったに違いない。そして、教室の窓ガラスを通して優馬もまた僕を見ていた。彼はいつものようにフッと微笑むと軽やかに片目をつぶって見せた。僕は、顔が熱くなって、心臓がギュッと掴まれたように苦しくなってしまった。
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