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「君は何を見てるの?」
プール開きの日、唐突に優馬が話しかけてきた。ついつい水着姿の女子たちを目で追っていた僕は、恥ずかしくなってしまった。
「べ、別に!なんでもないよ。」
「本当に?」
僕は優馬の瞳を見るのが苦手だ。無垢なのか擦れているのか判然としない。おそらくそのどちらも合っているのだろう。とにかく、優馬の目を見ていると全てを見透かされそうになる。
「君は女の子が好きなの?」
と優馬が問う。僕は、答えざるを得ない。優馬の瞳に降伏せざるを得ない。
「そりゃ、そうだよ。僕は男だからね。優馬は?」
「僕は、、、分からないな。」
「へえ、もしかしたら男が好きかもってやつ?」
僕は、つい先日保険の授業で習ったLGBTの授業について思い出した。もちろん、小さいころから知ってはいるけど、性というのは本来流動的で、性的嗜好や性自認は人それぞれで、将来変わり得る可能性もあるという。学校にもカミングアウトをしている生徒が何人かいるけど、それでいじめられたりということはない。
「フフ、分からないよ。」
「何がおかしいんだよ。男が好きだからって別に変なことじゃないよ。」
「人間はどうやって性別を決めるんだい?男が好き、女が好きといったことはどうやって固定されるの?何で、自分が男だと分かるの?なぜ、自分の体が自分のものだと分かるの?」
「さ、さあ。そんなこと分からないよ。授業だって何でLGBTの人がいるかなんて教えなかったし。それに、何で男か女かなんて。僕は男だもの。それ以上の説明は無いよ。」
僕は、優馬の目を見ることができない。うだるような暑さの中、セミの鳴き声と女子の黄色いはしゃぎ声が遠くから聞こえる。プールの水面ではキラキラと日の光が反射しているだろう。
「君は面白いね。」
優馬が僕の耳元で囁く。心がかあっと熱くなったのが、夏の強い日差しのせいなのか、優馬の低く甘い声のせいなのか、僕には分からない。
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