プロローグ

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プロローグ

清涼な空気がこの世を浄化する 景色一面が色褪せて見える一月 睦月とはよく云い現わした旧暦名 親族一同集まり宴を行う睦び月 この世と彼の世が交わる幻冬 昨日は木枯らしが吹いておりました 今日は緩やかな冬の木漏れ日に照らされております あのブランコがまだ其処に在ることに 感動しました あれは確か4年前の冬 私はあそこで、あの少年を見ました いや、再会したと云った方がいいでしょうか。 私は彼をよく知っています 私がまだ小さな少女で 男の子と一緒に外で遊んでいたあの頃の記憶です 名前は光一君 苗字は覚えていません 幼い子供の時の記憶です 光一君と出会ったのは 確か私が小学校に上がる前と 朧な記憶があります 少女時代は毎日がキラキラしていました 目に映る全てのものが輝いていました そして同時に暗くて蓋をしたい記憶もあるようです ある日、私は母に手を繋がれながら 電車に乗って知らない街まで来ました あの時も季節は冬 とても厳しく、寒い朝でした あの頃の母は若く 眩しいほど綺麗な女性でした 改札口を出てから 更に寂しさが込み上げてきて 堪らない寂寥感がありました まだコンビニなど喧騒な景観はなく 只管、閑静な住宅街が続いておりました 広い道路と両脇には立派なお家 殺風景で寒々としており 体感温度が蘇ってくる皮膚感覚 私は母に連れられて そこから船に乗ったのです 港がどう存在していたのかは覚えておらず 只、夜の海を渡っていく小さな船内 丁度、嵐が来ていてずいぶん揺れていました。私は風の音が怖くて泣いており その時に母から一枚の板チョコを貰いました。とても美味しかった味の記憶です 私のその時の記憶の続き とても嫌なことがあったみたいです 全く内容が思い出せず 恰も禁断の箱に固く封をされたみたいです、決して空けてはいけない とにかく思い出したくない経験だけは 確かな様です ですが、その日の夕食の出来事だけは 鮮明に覚えております 焼き魚を食べ乍ら母が突然、 涙をぽろぽろ流し始めました 落涙する理由など 幼い私には分かりませんでしたが、 私まで悲しくなり声を出して泣きました 「ごめんね、あなたはいい子なのに」 この時の記憶は此処で途絶えております もうひとつの記憶は私が光一君と出会い 一緒に遊んでいたものです 私は彼と野原でかけっこをしていました 風景は黄色い花がいっぱい咲いており 風も爽やか、全て光に包まれており とても安心できる場所でした その時も季節は冬 ですが、風景は厳寒の様相よりも 冬の木漏れ日の中で遊んでいた様でした 私は光一君よりも足が速く 私の後を彼が走っています 「優希は足が速いね、 ついていくのにせいいっぱいだよ」 彼は笑いながらこう云いました そして私は彼の手を繋ぎ一緒に歩きました 大きな川があり鳥の声が聞こえてきます 「大人になったら私、光一君のお嫁さんになる」 私は自分が云ったこのセリフを覚えています そこでの記憶はここで消えています これ以外は何も思い出せないのです
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