【 Burn Out! 】

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【 Burn Out! 】

       - 熾火(おきび)は消えない -    真っ白に燃え尽きた灰炭(はいたん)(なか)に、鮮血色に輝く紅玉(ルビィ)のような(ほのお)が残り続けるという。 それは、ひとたび彼方(かなた)からの風をうけると、燃え盛る力を取り戻し、自らを劫火(ごうか)の生き物と化してその身を膨張させる。  神が、その白き細炭(ほそずみ)のような肋骨で造り賜ふ(つくりたもう)たとされる人間はどうだろう。 心を氷室(ひむろ)で覆い隠し、表情を揺るがせる事がないように、鋼鉄のごとき仮面を覆った者にも、その身体(からだ)中芯(ちゅうしん)(ほのお)(とも)しているのであろうか。    (ある)いは(たましい)灰炭(はいたん)となった冷たい屍躯(したい)となっても、(くすぶ)り続ける熾火(おきび)を使い、生前の想いを遂げるために目覚めることはあるのだろうか? 『(アズマ) 冷二(レイジ)』 その男は感情(こころ)を動かす事を忘れた男だった。  古代希臘(ギリシア)彫刻のように、(ひたい)とつながる高い鼻骨(びこつ)(ほり)の深い目元の窪みが作る陰影で、瞳の表情を読み取る事ができない。 なによりも、アテナイの遺跡から持ち出された白大理石(タソスホワイト)のように、冷たく、そして透明純度の高い白い肌が、彼の(あおぐろ)い瞳をより深く、生気の消えた様を一層と際立たせていた。   彼の居城の実験室に設えた、細菌を探求するための紫外線を照射するブラックライトの光線が、その丸めた長身と長い手脚を(くる)む白衣の蛍光剤(けいこうざい)を、白骨のように薄ぼんやりと発光させている。  その幽かに揺らめく 青白い炎を放つ背中に宿す悲しみを  誰も知らない。
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