第三章

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「篠田さんに口止めされてね。もちろん、僕はみんなに言った方が良いって何度も伝えたんだけど、肝心の篠田さんはみんなの悲しい顔を見たくないから黙っていてとお願いされて」  我慢できずに何人かのクラスメイトは涙を流していた。静まり返る教室の中で、鼻をすする音だけが響く。誰もが俯き、自分自身の無力さを悔しがっているようだった。    いや、と圭太は声をあげる。 「俺たちも、入院が続いていて変だなと思っていたんだ。薄々まずいのかもしれないと感じていながらも、心愛に訊けなかった。同罪だな」  その言葉に反論する者はいなかった。 「だとしたら、早く見つけてやんねーとな。どこかでぶっ倒れていても助けてくれる奴いなかったらヤバいだろ」 「そうだね」  僕は幹人の視線を受けてそう答える。  クラス委員の圭太は最後にまとめるように手を叩く。 「心愛の事情はみんな何となく理解したね。じゃあ、警察とか自衛隊とかとは別に俺たちでやれることはやろう。はらっちは、彼女にまつわる情報を仕入れてくれ。幹人、白坂、空田は心愛の行きそうなところを当たってくれ。他のメンバーも心愛について何かあったらグループラインで連絡してくれるとありがたい」  その言葉を受けて、皆が頷いていき、いつもの喧噪が戻ってくる。  そうだよ、最初からこうやって頼って対処していれば、大事に至らなかったかもしれない。そういう後悔のなか、僕は今彼女がどこにいるのか想像を働かせていた。僕のもとから離れていく彼女は一体どこへ向かったのだろうか。僕は握りこぶしを作って、窓の外を見た。  茜色の空が広がり、開けられていた窓からそよ風が流れ込んでくる。きっと大丈夫だ。僕がまたここに彼女を連れ戻す。  ――あいつなんてこのまま消えちゃえばいいんだ。  おそろしく冷たい小さな声だった。僕だけが言葉に誘われるように振り向き、その言葉の主を探したが、もうそこには誰もいなかった。  クラスに広がる喧騒が遠のいていき、僕はまるで一人ぼっちになったかのようだった。  
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