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僕は凪いだ海を見つめていた。夕日が水面にも反射して穏やかに揺れている。あのときは、何もかもを飲み込んでしまいそうなほど白波を立てていたのに、今はその見る影もない。穏やかな時間が流れていく。
心愛の捜索は難航を喫している。それはそのはず、彼女へとつながる手がかりがあまりにも少なすぎた。目撃者はおらず、監視カメラにも映っていない。僕の証言だけが独り歩きして、海に戻ったとか、そのまま終点駅まで行ったとか、色々なことを言われている。だけど、その予想はすべて外れて、忽然と彼女が消えたという事実だけをくっきりと浮かび上がらせていた。
――なあ、どこにいるんだよ。
その声は頼りなくて弱々しかった。
少しずつおかしくなっていく日常は、僕を憔悴させていった。いつもなら、こんなことが起きても、すぐに切り替えて何事もなかったように進めていた。だけど、今回はどうしてそうならないのだろうか。なぜ、こんなにも胸が苦しくなるのだろうか。
どうして勝手に目から涙がこぼれてしまうのだろうか。
顔を覆って、僕は膝から崩れていった。砂浜はそれを優しく受け止めてくれて、それほど痛くはなかった。止めどなく流れる涙はとてもしょっぱかった。奥歯が痛くなるほど噛みしめて、砂浜を何度も殴りつけた。
涙が枯れ果て、昂った心が落ち着いたころに僕のスマホが震えた。すっかり暗くなったところに明かりが灯る。僕はスマホの画面を見つめて、すぐに立ち上がった。
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