第三章

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 今朝未明に散歩していた六十代の男性が殺される事件が発生した。通報したのは新聞配達員で、その人によると胸を押さえて倒れていたとのこと。病院に搬送後、男性はまもなく死亡した。警察によると、死因は感電死だったそうだ。遺体には目立った外傷はなかったものの、頭部に小さく焼け焦げた跡があったという。凶器も見つかっておらず、どういった方法で殺害されたのかは不明。一部では、アンドロイドの暴走なのではないかという見方もあるとのこと。    まさか、という想いがよぎる。 「うわーネットすごいことになってるぜ」  はらっちの声に誘われてそっちに行ってみると、机に自分のスマホを置いてSNSの書き込み欄をスクロールしていた。 「アンドロイドが犯人ね。俺は到底信じられないし、そういう情報に踊らされる人間がいることに驚きだよ。そもそも今までそういう事件がなかったわけだし。アンドロイドがやれるだけの力を持っているとも思えない」  圭太は腕を組んで、眉をひそめていた。 「今までと言っても、僕らと同じくらいの年月しか経っていないからな」  はらっちの言葉にますます圭太は不機嫌になったようだった。どれだけアンドロイドに溺愛しているのだろうか。 「でも、これは人間の犯罪なのよね?」  西尾さんの言葉にみなきょとんとした顔を浮かべた。 「うーんとね。だって、アンドロイドって人が組み込んだものじゃない? だから、アンドロイド自身で意思決定もしていないし、ましてや殺意なんてあるとは思えないわ。それなら、犯人は人間でしょ」  はらっちはなるほど納得しているようだった。  僕も心愛の件がなければ、そういうもんかなと受け流していたが、今回はそうもいかない。というのも、アンドロイドは自分で意思決定もするし、感情も人間のように豊かであると知ってしまった。アンドロイドも人間のように殺意をもってしまえば、こういう殺人事件も起こりうるということだ。 「でも、人間のようなアンドロイドがいてもこの時代おかしくねーよな? 俺は野球ばっかだからその辺よくわからないけど、圭太とかならなんか知ってんじゃないの」  視線は幹人から圭太に移る。 「そうだね、俺もそういうアンドロイドがいてもおかしくないとは思っている。けれども、だからといって、アンドロイドが人を殺すとは思えないのが本音かな。で、きみはどう思う?」  突然こちらに視線が集まり、僕は緩んでいた表情を引き締めた。固まった脳内は真っ白になり、適当に見つけた言葉は、ずっと疑問に思っていることだった。 「どうというか、アンドロイドって家族いるのかなって」  何を言っているんだこいつはという表情を浮かべているのは白坂さんのグループだった。僕はすっとそこから視線を逸らして、なんとか誤魔化そうと喉元まで出かかった言葉は幹人によって遮られた。
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