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一軒家といえば聞こえはいいが、どう見ても数世代前の代物だった。木造の二階建てで、不謹慎かもしれないが、火をつけたらすぐに全焼してしまいそうな建物である。庭先には、放置されたままの物干し竿がひっそりと佇んでいる。なんとも物寂しい雰囲気を漂わせているここは、篠田心愛の家だった。
どうして彼女の家を訪れることになったかと言われれば、僕の家族発言から、まだ彼女の家に行っていないではないかということになり、僕ら、つまり言い出しっぺの幹人と二人で行ってこいということになった。
「それで、幹人はどれくらいここに来たことがあるの?」
そんなことをいちいち聞かなくても、幹人はすぐ顔に出るから何となく察せるのだけど、念のため答え合わせをしておきたかった。
「うーんと。一回くらいかな」
「いや、ちょっと待って、それもう初めてと変わらないじゃないか」
普段は間の抜けた顔をしているのに、今日に限ってやたらと険しかったから嫌な予感はしたんだ。でも、まさか彼女の家には一回しか来たことがないとは思わなかった。
「まあ、でもほら、俺は一応心愛の親とも面識あるからさ」
「ほう」
「すぐ追い出されたなんて言えねーけどな」
いや、思いっきり言っているじゃないかと思いながら、彼に冷ややかな視線を送る。
図体の割に小心者の彼は呼び鈴を前にしても、どうしようか躊躇っているようだった。その姿がじれったくて、僕は仕方がなく代わりに押してやった。
「おい!」
一緒にいる奴が焦っているとなんだか冷静になれる気がする。そう、今みたいに。
もう一度呼び鈴を押しても何の反応もなかった。どこかへ外出しているのだろうか。念のため、引き戸のドアをノックする。そして、何度かすみませんと呼びかけてみるものの、やはり反応はなかった。
「両親は共働きとかなの?」
「そんな話は来たことねーな。確か、あいつの母親は専業主婦だったはずだ」
それなら、母親が家にいてもおかしくない時間帯だ。
「ちょっと待ってみますかね」
「ロイド、今日はやけに積極的だな」
「彼女の件は、大部分僕のせいだからね。黙って待つなんてことはしたくないんだよ、多分」
借金取りってこんな気分なのだろうかと、僕は彼女の家の塀に体を預ける。
「そんなことはねーよ。半分は俺らのせいだ」
「それでも、半分は僕なのかよ。配分おかしくないか」
「細かいこと気にすんなよ。さっき自分のせい、うわぁ!」
図体に似合わない情けない声を出した幹人は驚きのあまり固まっていた。今度はなんだよと冷たい視線を送ってから、彼の視線を追う。ブロック塀の切れ間から、半分だけ顔を出した西尾さんがそこにいた。さらにいえば、こちらに向かって微笑みかけている。確かに、これはホラーだ。
固まっている幹人をほっておいて、僕は軽く会釈する。どうしてなのか、西尾さんは同年代という感じがあまりしなかった。
「どうして、西尾さんがここに?」
「どうしてと言われると、きみたちだけだと心配だったからよ」
いつも頭の後ろで結ばれている髪は下ろされていた。それだけでなんだか別人のように思えてしまう。不思議なものだ。
「僕ら二人だけでも大丈夫ですよ」
あまり話を引き延ばしたくはなかった。西尾さんは一見真面目な生徒という印象を受けるが、それはあくまでも彼女が繕っている一部に過ぎず、どこか胡散臭さがある。
「そんな邪見に扱わなくてもいいでしょ。話だけでも聞いてみない?」
ここで断る方が何かされそうで怖い。彼女には、パンケーキ屋でのツーショットを握られているわけだし、下手に出ない方が賢明だろう。
「話だけなら」
と僕は渋々頷いた。
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