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いよいよ僕には止められない。
幹人はあの少女がいた空き教室に入っていく。僕はなんて言い訳しようか頭をフル回転させていた。
「んだよ。何もないじゃねーかよ」
そんなことはない。さっきまであの少女はこの空き教室の真ん中に立っていた。どこかへ行けるほどの時間は要していない。
僕も空き教室に入ると、そこには殺風景な世界が広がっていた。ここにいるのは、僕と幹人だけだ。
周りを見渡す。どこかへ逃げたような形跡はない。いよいよあれは、本当に幽霊だったんじゃないかって思ってしまう。
「だから、言ったでしょ」
安心するのとは裏腹に、僕の手は汗ばんでいた。
「やっぱ、あいつは見間違いだったか」
幹人は僕の声など聞こえていないようだった。
あいつという気になるフレーズを心の中で反芻する。まさか、あの少女のことを言っているのだろうか。僕は気になってしまったが、それを幹人に訊く勇気はもてなかった。
僕はあの少女のように教室の真ん中に立つ。西日は強烈に僕の顔を照らし、その光を遮るように手を翳す。その光は僕には眩しすぎるものだった。
幹人は勢いよく窓を開けて、ため息をついていた。
外気が埃っぽい空気を一新し、夏の匂いを部屋に充満させる。
もうすぐそこに夏が迫っているようだった。
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