第三章

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「あんたのせいですべてが狂った。心愛がいなくなったのも、入院するようになったのもあんたが何かしたからだって知っているのよ。じゃないとおかしいじゃない! あの子は元気で責任感もあって、誰よりも相手のことを想うような子なのよ。そんな子が急に何の音沙汰もなくいなくなるなんておかしいじゃない……こんなことになるのなら、あの時あんただけを残すんじゃなかった。ねぇ、黙ってないで何か言えよ!」  机が叩かれる音が教室に響く。  大きく波をうった感情は一気にこちらに押し寄せてきて、僕はその波に連れ去られていった。息をすることもできず、藻掻き苦しみ、僕は水中にいるようだった。 「ほら、すぐ都合が悪くなれば、だんまりだ。そういうところが嫌いなんだよ。なんで、もっと思っていることをさっきみたいに言わないんだよ。あんた分かっているのか……心愛を不幸にしたということ。あんたが心愛に近づかなければ、今も楽しく学校に通っていたし、病気があってもみんなが一生懸命サポートできたんだよ。それを、秘密にして、隠して、それで蓋を開けたらもう心愛はここにいない。なんだよそれ。もう善人ぶるなよ、僕も被害者ですみたいな面するなよ。あんたが心愛のことを語る資格なんてないんだよ!」  勢いよく捲くし立てた白坂さんは、あまりの興奮に肩で息をしていた。  僕はそんな彼女の姿をどう見つめればいいのか分からなかった。怒りに満ちた言葉の数々は、僕の心の底に落ちていき、手足を冷たくさせ、胃をきりきりと痛めつけた。  僕はなにをしたら許されるのだろうか。何も間違ったことはしていないのに、それがひどく不正解のような気がしてならなかった。僕が僕のためにすることは誰かを不幸にしてしまう。そんなどうしようもない無力感が僕の身体を飲み込み、そして六時間目の終わりのチャイムが鳴り響いた。
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